第68回秋季大会プログラム E-ポスター発表 Q&A

掲載期間 10月5日(月)~10月12日(月)

01. 理論・思想(オンライン)

E01-01
「反抑圧的ソーシャルワーク(AOP)」の理論と実践
― 社会正義の実現はいかにして可能か ―

○二木 泉(University of Toronto), 茨木 尚子(明治学院大学), 坂本 いづみ(University of Toronto), 竹端 寛(兵庫県立大学), 市川 ヴィヴェカ(University of Toronto)

質問1
山下 尚郎(明治大学大学院ガバナンス研究科)
量的研究をメインとする方には、本研究を二木先生と市川先生のサンプル2の研究として価値を問うような質問をする方も過去にはいたのではないかと感じましたが、いかがでしたか。もし、そのような、ご経験があるようでしたら、どのような、ご回答をされたのか教えて頂ければ幸いです。
回答
本研究はAOPの理論に照らしながら行ったナラティブの実践により、実践者が社会および自らの抑圧構造を理解したことで、どのような変化や気づきがもたらされたかを明らかにした質的研究です。ある集団からなるべく多くのサンプルを抽出し、統計的に有意であるか・ないかによって仮説が正しいかを問う量的研究とは異なります。質的研究の定義は多様ですが一般的に質的調査では既存の理論や方法論、パターンの有効性を確認したり検証することを目的としません。特にナラティブを利用した研究では、語りを母集団の一部としてのデータやサンプルとしてみなして、どれだけ「客観的現実を正しく反映しているか」を測定するために利用することはありません(やまだ 2007)。質的研究では、対象者が多様な立場にあることを前提にした上で、その生活や価値観など、対象者の視点に注目し、それらを明らかにするように努めます。そして研究対象となる事象をできるだけそれが生じている社会的、文化的、歴史的文脈においてとらえ、理解しようとすることが必要となります(波平・道信 2005)。
参考文献:
波平恵美子・道信良子(2016)『質的研究 step by step』医学書院.
やまだようこ (2007) 『質的心理学の方法ー語りをきく』新曜社.
質問2
木原 活信(同志社大学社会学部)
 大変、興味深く、読ませてもらいました。研究者としての「私」の語りという発想は、斬新でした。客観性に囚われがちで埋もれてしまいがちな差別や反正義を、ソーシャルワーク研究のなかで明確化するうえでは大変有用であり可能性があると思いました。
 そのうえでですが、近年、日本では研究者(実践者)の「私」をエピソード記述という方法で現象学的に間主観的に描こうとする試みがかなり蓄積され試みられています。本研究ではこの点についての検討がなかったようですが、これについての研究上の異同や差異について教えてください。
回答
これまで研究者(実践者)によって行われてきた現象学的に間主観的に「私」を描くことと、本稿のAOPに基づく「私」の語りの分析は、両者とも研究における客観性・中立性に自覚的に距離を取り、自らが自己と他者、社会の関係性の中でどのような価値前提に囚われているのかを自己省察的に掘り下げていく営みであるという点で共通しています。
一方、相違点は「方法」と「目的」にあると考えます。方法は、前者は「異文化や自らの影と対話する」=「他者の他者性」と出会うことを重視するなど自己内対話の言語化が中心ですが(松田 2020)、後者は他者との対話の中で自らの抑圧構造を振り返り、社会構造の抑圧問題として捉え直す試みです。
また目的は、これまでの「私」の分析の多くが、支援対象となる人との関係性に焦点を当て、その関係を見直すために、自分の権力性を省察する自己覚知の手段として使用されることが多い一方(Parkes 2015)、本稿の語りは、自己省察を越えて、社会正義を実現するための手段の一つです。私たちは「AOPを日本のソーシャルワークにいかに導入するか」をテーマに、メンバー間で対話を続けることで、自らの権力性に気づくだけでなく、ミクロからマクロまで私たちの内外に浸透する抑圧関係の洗い出しをおこないました。その中から本稿では、研究者が「私」を中心として語ることを考察し、それが抑圧撤廃に向けた第一歩、すなわちAOP実践の一環となることを提示しました。
今回の経験から、AOPの批判的視点を備えることは、研究者や実践者に社会の差別・抑圧構造を自らに引き付けて省察することを促すだけでなく、研究や活動がソーシャルワーク本来の目的である社会正義の実現につながると考えました。もちろんこれまで「私」を分析されてきた方の中にも、その視座をミクロな対人関係からマクロな社会構造に広げたり、社会変化に関心をもつ方が少なくないと思います。その際AOPという理論的基盤をもつことで、自分を中心に語ることの先にある、社会正義の実現という目標への道筋がよりはっきりと見えてくるのではないかと考えます。
今回、「私」を描く既存の研究との比較という点は示していませんでしたので、ご指摘いただいたことは重要だと思いました。ご質問ありがとうございました。

参考文献:
Parkes.A., (2015). Reflexivity as Autoethnography in Indigenous Research. In Lia Bryant (Ed.) Critical and Creative Research Methodologies in Social Work. Routledge.
松田博幸.(2020).「ソーシャルワークにおける対話の意味一一オートエスノグラフィーを通した一考察」.関西社会福祉研究.(6).13-25

02. 歴史(オンライン)

E02-07
LARA救援活動の展開と収集情報の様相
― フレンド派を中心に ―

○西田 恵子(立教大学)

質問1
木原 活信(同志社大学社会学部)
大変、興味深い研究で関心があります。
クエーカーといっても神学的にヒックサイト派、保守派からリベラルまで幅広く、必ずしも一枚岩でとらえるのは難しいようですが、E.B.ローズの立場はそもそもどのようなものだったのでしょうか。
回答
ご質問、ありがとうございます。私はキリスト教に関する知識と意識が薄弱であることを認識する機会になりました。先生のご質問を受け、今後の検討における留意点をとらえることができました。
E.B.ローズの所属したフレンド派について「キリスト友会(フレンド派)のフィラデルフィア年会は、年会として1683年に最初の総会を持った。けれども、1827年にOrthodox(正統派)とHicksite(ヒックス派)の2派に分裂して、双方とも『フィラデルフィア年会』を名乗った。そのため、Orthodoxの方は別名をArch Street年会、同様にHicksiteはRace Street年会と呼ばれるようになった。」「同年会は、1827年以来1世紀以上の歴史を経て1955年に統合されたので、改めて現在のフィラデルフィア年会となった。」沿革を持ちます(大津:2019:285)。1969年にローズが最後の委員長に就任したフィラデルフィア年会日本委員会Japan Committee of the Religious Society of Friends in PhiladelphiaはArch Street年会の中でもガーネイ派と呼ばれる婦人友会徒が1882年に設立したフィラデルフィア・フレンド婦人外国伝道会がはじまりで、ローズの母は設立時の会員だったとのことです。ララの発足や活動の時期、あるいはローズの戦中の在米日本人に対する支援活動の時期、普連土へ初めて赴任した時期は、まだ統合される前の時期にあたります。これらについて、キリスト友会日本年会の会員であり、前述の書を著した大津光男氏に教えを願ったところ、「1887年には五年会が作られ、統一への動きが始まっている。」「フレンドの歴史は、全会一致の原則がとられており、合同するまでに長い時間がかかっている。そのためには共通の協力し合える事項が必要でAFSCの創設はその一つの手段でもあったと考えられる」「終戦前の日本への救済を両派の人々が集まって熱心に討議し、ローズを送ったのである。」と説明をいただきました。
奉仕活動の使命を派を越えて共有し行動するか、あるいは分裂するかの選択と調整について、さらにはカトリック他と連携した際の、使命の共有と行動方針の調整、運営方法の調整等について検討するという研究課題をあらためてとらえることができました。このことに関わり、ACVAFSという大きな研究対象へ取り組む動機のひとつになりえます。
なおサブタイトルの「フレンズ派」は「フレンド派」と表記するべきところ、誤記してしまいましたことを申し添えさせていただきます。

03. 制度・政策(オンライン)

E04-03
独立型社会福祉士による法定活動の構造

○小川 幸裕(弘前学院大学)

質問1
永野 叙子(筑波大学 人間系)
なかなかアクセスが難しい成年後見人である独立型社会福祉士の実態より、その独自性を明らかにされた貴重なご報告をどうも有難うございました。
社会福祉士の法定後見活動の多くを独立型社会福祉士がになっていることが示され、とても驚きました。
私の質問は2点、以下のとおりです。
①対象者のリクルートは、日本社会福祉士会を通じて行われたと拝察しますが、当該団体では、独立系社会福祉士と、一般の社会福祉士の後見活動の違いなどは、把握されておられるのでしょうか。

②対象者が受任している被後見人等の概要などご教示いただけないでしょうか。と申しもますのも、専門職後見人の中で、身上保護で難しい案件(虐待など)は、社会福祉士が担当すると言われていますが、実際、そのような案件を受任されているのかどうか。また、独立型社会福祉士に望まれている案件はどのようなものなのでしょうか。以上、どうぞよろしくお願い申し上げます。
回答
ご質問ありがとうございます。ご質問への回答は以下となります。どうぞよろしくお願いいたします。

①対象者のリクルートは、日本社会福祉士会を通じて行っております。日本社会福祉士会では、「権利擁護センター」ぱあとなあ(以下、「ぱあとなあ」)にて、社会福祉士による後見活動を管理しており、「ぱあとなあ」は都道府県社会福祉士会で運営され各都道府県のデータを日本社士会が集約している形になります。年度ごとに集計が報告されておりますが、そこでは勤務型社会福祉士(以下、勤務型)と独立型社会福祉士(以下、独立型)で分けられていないため、「ぱあとなあ」報告では勤務型と独立型の後見活動の違いは把握されておりません。
 昨年、勤務型と独立型の後見活動の比較を目的に、青森県社会福祉士会の「ぱあとなあ」会員に今回と同様のアンケート調査を行いました。回答者が60名のため単純集計による分析ですが、確認できた違いは次のとおりです。①受任件数(中央値)が独立型12.0件、勤務型3.2件と差が9.2件で独立型の方が多い、②独立型の方が高度な法律知識が求められる財産管理を行っている、③独立型の方がストリングスやエンパワメントに関する項目を行っている、④独立型のほうが多職種連携を基盤に後見活動を行っている、⑤独立型の方が後見報酬を課題としている。背景には、独立型の自由度の高い活動形態が影響しており、後見活動を行う時間が勤務型よりも確保できるため、法律専門職との連携による高度な財産管理への対応と法律行為に付随する事実行為をとおしたソーシャルワークを可能にしていると考えています。

②今回の調査対象者が受任している後見活動の具体的内容については、回答者への追加調査を実施しておりませんので、これまでの独立型へのインタビュー調査(2011年~2017年、調査対象44名)と『実践成年後見』に掲載された法定後見の事例(2000年~2019年、193事例)における法律専門職と社会福祉士の比較検討の結果から述べさせて頂きます。ご指摘のとおり、社会福祉士が選任されるケースとして、身上保護に重点を置く必要があるケース(虐待、身寄りがない、生活保護など社会福祉関連サービスを複数利用など)が多く、これらのケースは市町村申立てによることが多い状況にあります。法律専門職も不動産処分や相続手続きが関係する虐待ケースにおいて選任される場合もありますが、多額の資産があり紛争に発展するケースに限定されていると思います。
 また、独立型に望まれる案件は、被後見人との関係形成が困難で日常的な関わり(時間)が必要となるケース、法律専門職と連携して債務整理・不動産処分・相続手続きが必要なケース、身寄りがない・親族や地域との関係が悪く孤立状態にあり連携ネットワークを新たにつくることが必要な案件があげられます。

04. 方法・技術(オンライン)

E06-01
養母が血縁を超えて親になるまでのプロセスと支援
― 複線径路・等値性モデル(TEM)による分析を通して ―

○森 和子(文京学院大学)

質問1
田垣 正晋(大阪府立大学)
社会福祉学において、TEMによる研究が増えることはうれしいです。先生が心理変容とされている同心円状の図はTLMGと解釈できるでしょうか。また、話が大きくなるかもしれませんが、ブロンフェンブレナーの生態学的モデルとの関連もあるのかと思いました。
回答
大阪府立大学
田垣 正晋先生

お忙しい中、拙稿を丁寧にお読みくださり本当に有難うございました。
ご指摘の通り、図3の同心円状の図はTLMGの理論を用いて作図致しました。TEMの理論の流れでTLMGを遣わせていただきましたが、先生のご指摘の点にまで気が付いておりませんでした。改めてブロンフェンブレナーの生態学的モデルについて調べさせていただきました。ブロンフェンブレナーの生態学的システム理論を用いることで、発達途上にある子どもと生態学的なシステムが相互に影響を与え合うという視点を取り入れることでさらに心理的変容に対する分析が深められるのではないかと思いました。今後の研究に生かしてまいります。大変重要な点をご教示くださいましたこと心より感謝申し上げます。

06. 家族福祉(オンライン)

E07-11
知的障害のある人の結婚・パートナー生活と子育ての実態に関する調査
― 指定特定相談支援事業所への質問紙による調査 ―

○延原 稚枝(筑波大学大学院人間総合科学研究科障害科学専攻博士前期), 名川 勝(筑波大学 人間系)

質問1
田中 恵美子(東京家政大学)
質問というか、コメントです。
調査の結果を拝見でき、大変うれしく思いました。私自身も相談支援事業者への調査を実施したいという思いもありましたので、このように調査をしていただいて大変ありがたく思いました。ただ、結果は意外でした。生活のしづらさ調査よりもより多くの方が結婚されているだろうという予測があったからです。障害福祉サービスを使うすべての人がサービス等利用計画を作成するようになっているはずですので、そうなると、欧米の研究にあるような、より広い範囲での把握が必要なのだろうと思いました。調査結果のより詳細なものを論文にされるようでしたら、ぜひ教えてください。大変楽しみにしています。
回答
ポスターをご覧いただき、また貴重なコメントを賜りましたことに、心より御礼申し上げます。
コメントをいただきましたとおり、本調査結果では、「生活のしづらさ調査」よりもパートナー・配偶者との同居、並びに子育てをしている者は少なくなりました。これは考察にも一部記載しておりますが、本調査のサンプリングに課題があったことを示していると考えております。すなわち療育手帳を取得していない知的障害のある母親は勿論のこと、障害福祉サービスを利用しないままに子育てをする多くの母親を対象とすることができなかったということです。
ただし、調査本結果だけでは間接的ではありますが、知的障害のある母親にとって、そのニーズを充足するような障害福祉サービスが準備されていない、サービスの利用要件の課題、あるいはサービスへのアクセシビリティが確保されていない等の制度上の課題があることが推察されます。したがって田中先生がご指摘くださっている通り、今後より丁寧で、かつ大規模な調査が必要であることを示唆する結果でもあると考えております。ただしご承知のとおり、いずれの国でも十分な調査実施は容易ではないことが示されているところから、本結果を一定の資料として受け止めたうえで、次の取り組みにつなげていきたいと考えております。さらなる調査の展開については、私どもの能力を超える懸念もありますため、多くの方々との連携も必要ではないかと愚考する次第です。
論文にする際はご指摘いただいた点を踏まえて、検討を進めて参る所存です。論文が完成した暁には、ご報告いたします。引き続きご指導・ご助言のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。

07. 障害(児)者福祉(精神障害含む)(オンライン)

E08-08
ドイツにおける介護保険制度改革と在宅介護に関する研究

○斉藤 弥生(大阪大学大学院人間科学研究科)

質問1
小島 克久(国立社会保障・人口問題研究所)
興味深いご報告ありがとうございます。勉強になりました。
一点確認をお願いいたします。
5.調査結果の考察 より「福祉団体などによる給付」ですが、これは福祉団体が、連邦および州政府の制度に関係なく独自の判断で行なっている給付と考えても良いでしょうか。ご教示の程よろしくお願いいたします。
回答
ご質問を下さり、ありがとうございました。「福祉団体などによる給付」ですが、ご推察のとおりです。例えば私が調査を続けている福祉団体はプロテスタント系の団体ですが、団体独自の財源があります。また地域からの寄付もあり、このような財源による活動やサービスは自分たちのルールで運営しているようです。

08. 高齢者保健福祉(オンライン)

E08-10
認知症介護実践者研修受講後の行動変化測定
― 受講半年後のアンケート調査から ―

○曽根 允(社会福祉法人静岡県社会福祉協議会)

質問1
山口 友佑(認知症介護研究・研修大府センター)
貴重なご報告ありがとうございます。
実践者研修修了生の行動変容の結果で、地域資源の開発、活用したケアの提供の部分で変化がなかったとの割合が高かったとの結果が出ていました。この部分は、指導者の方とお話をさせていただく際にも、意見として出てくる部分で、各府県市とも同じような課題を抱えていると思います。今回のご報告は、今後の実践者研修の内容や評価を検討していく上で、とても貴重な報告だと思います。
1点ご質問させていただきたいのは、行動変容の調査結果において、認知症の人を人として捉えることや本人の能力を活かした環境調整などについて、「変化があった」という回答が高い結果が出ておりますが、このような結果に繋がった背景には、どのようなことが考えられるかについて、教えていただければと思います。
回答
ご質問ありがとうございます。また、日頃より大変お世話になっております。
「認知症の人を人として捉えること」「本人の能力を生かした環境調整や介護技術を提供する」について、「変化があった」との回答が多かったことについての背景について、再度、自由記述を見直してみました。
「認知症の人を人として捉える」については、長年、本県研修の主軸として講師(認知症介護指導者)から意識して繰り返し、お伝えいただいています。※研修前の講師打ち合わせでも確認。繰り返し、様々な講師から伝えられたことで、受講者の意識に深く根付き、今回の調査の自由記述でも「常に意識している」「利用者と向き合う際に意識するようになった」といった記述が多くみられました。なお、この項目に対しては、112件の自由記述があったのですが、うち39件(34%)が、「視点の変化」についての記述でした。
「本人の能力を生かした環境調整」については、自由記述を再確認したところ、やはり概念がイメージしやすく、現場実践の変化につながりやすかったのだろうと考えられます。なお、この項目に対しては、82件の自由記述があり、うち34件(41%)が「ケア方法の変化」についての記述でした。
「イメージのしやすさ」という点において、「変化がなかった」との回答が多かった「認知症の人の地域資源を開発、活用したケアの提供」との差異があるのではないかと考えています。
E08-20
中国の介護保険制度の現状と課題
― パイロット事業を推進する15地域の分析から ―

○楊 慧敏(同志社大学)

質問1
小島 克久(国立社会保障・人口問題研究所)
網羅的なサーベイと緻密な分析を拝見させていただきました。中国の介護制度は複雑なので、今回のご報告大変勉強になりました。
ご知見をお伺いしたく、以下について質問させていただきます。よろしくお願いいたします。
x.考察の 議論を深めていくべき課題 ですが、中国の介護制度の財政持続可能性確保のためには、安定的な財源とこれを人々が無理なく負担できる仕組みが必要と思います。介護保険として独立した保険料、低所得者対策としての公費補助が必要かと考えられます。これについてどのようにお考えかご教示ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
回答
 小島先生、ご質問ありがとうございます。
 中国の介護保険制度は社会保険として構築していく場合、被保険者、とりわけ低所得者を対象とした保険料の減免や補助を行う必要があります。なお、補助金は地方政府だけではなく、中央政府から支給されるべきであると考えております。
 介護保険制度を試行している15のパイロット地域の介護保険料の構成をみると、地方政府による被保険者への保険料補助が行われているケースがあります。中では、南通市の地方政府は、低所得世帯や未成年および学生の介護保険料の全額を補助しています。そして、その補助金は、市レベルの政府財政から賄っています。
 ところが、介護保険の保障範囲が拡大していく中、差異のある地方財政だけでは介護保険料の補助金をまかなえるとは限らないです。そのため、中国政府は持続可能な介護保険制度を構築し、運営するには、中央政府による補助金、特に地方財政が豊潤でない地域への補助金を支給する必要があります。ただし、その詳細、つまり、中央政府と地方政府それぞれどのぐらい負担すべきかについて慎重に検討する必要があります。
 私の回答は以上です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

09. 女性福祉・ジェンダー(オンライン)

E11-02
国際ソーシャルワーク研究の可能性
― イスラム教ソーシャルワーク活動とソーシャルワーク教育カリキュラムの国際比較研究 ―

○松尾 加奈(淑徳大学)

質問1
栗田 修司(龍谷大学社会学部現代福祉学科)
日本では十分には研究されていないイスラム圏のソーシャルワークについてご報告いただき大変興味深く読まさせていただきました。
そこで、1点だけ質問です。
調査対象においては、宗教の中にいわゆる欧米的なソーシャルワーク機能を見出せるということをご報告されていると思いますが、その場合、ソーシャルワークの範疇には含まれないのは、どういう活動になるのでしょうか?逆に言うと、具体的にどういう活動がソーシャルワークと考えられるのでしょうか?
ご発表の主旨とはずれた質問かとは思いますが、よろしければお教えください。
回答
龍谷大学 栗田先生
ご質問ありがとうございます。ソーシャルワークの機能を持った宗教者の活動を抽出する過程で、 全米ソーシャルワーカー協会のエンサイクロペディアの項目を参考にし、社会的に脆弱な立場にいる人々への支援活動はどのようなものがあるか、という質問を各現地協力者にしたところ、エンサイクロペディアの項目と重複するものがありました。教義に反するとはいえ薬物依存のリハビリテーション施設も宗教系NGOで運営されていました。本発表では、「ソーシャルワーク」を日本の社会福祉法制度及び制度に基づく社会福祉サービスに準拠する領域分野に限っていません。例えばパキスタンのモスクで実施されている貧困層の子どもたちへの宗教教育も、マレーシアのNGOが孤児を引き取って個人の家で生活させ教育を受けさせることも含めて、利他的な社会活動全般(支え合い、助け合い)をソーシャルワーク活動と考えています。日本人が慈善事業、チャリティと捉える活動も含んでいます。

11. 国際社会福祉(オンライン)

E12-02
生活保護ケースワーク分野における福祉職採用の現状と課題
― X県での実態調査結果を基にした理論的考察 ―

○村田 隆史(京都府立大学公共政策学部), 工藤 英明(青森県立保健大学健康科学部), 宮本 雅央(青森県立保健大学健康科学部), 葛西 孝幸(青森県立保健大学健康科学部)

質問1
田中 秀和(立正大学 社会福祉学部 社会福祉学科)
貴重なご発表ありがとうございました。私は現在、全国公的扶助研究会の現代史について研究しています。私も養成校の教員をしている関係で、行政機関へも社会福祉士の配置が増加をすることを願っています。また、全国公的扶助会のなかでもケースワーカーの専門性を高めようとする議論は長年行われており、実際福祉専門職採用を行っている自治体が増えていることは望ましいことであると考えています。
今回のご発表は、福祉専門職採用で任用された者が他の行政職員と比較して大きな差がなかったということでありました。これは、私自身も意外な結果であったと感じています。ご質問ですが、福祉専門職採用を行っている自治体はなぜそれをはじめたのかについてお持ちの情報があれば教えていただきたいです。福祉専門職採用が増加しているなかで、自治体内で福祉専門職への期待が高まっているから、専門職採用が増加しているのだと思われますが、それ以外にも外圧のような形で、福祉職採用をはじめる自治体があるかもしれませんし、社会福祉士という資格の認知が少しずつ上がってきたなかで、福祉国家資格者を採用しようとする自治体があるのかもしれません。その点について教えていただけますと幸いです。
回答
 ご質問ありがとうございます。全国的に調査をしているわけではないので、X県 の状況をお答えいたします。本文中にも書きましたが、X県が福祉職採用(社会人枠を除く)を開始したのが、5年ほど前です。その前から、X県社会福祉士会が福祉職採用を実施して欲しいと要望していました。また、実習先の確保と卒業生の進路選択肢を増やすことを目的に、X県内の社会福祉士養成校が国家資格を保有した専門職を配置して欲しいと連名で要望書を出していました。県が実施することによって、県内の市町村には波及することも想定したようです。X県庁内の社会福祉士保有者や福祉分野で長く働く有志からも声を挙げていたと聞いています。これらの要望に対して、X県は専門職として採用することのデメリットを回答としてあげていました。
 そのため、実際にどのように政策決定したのかは当時のX県の議会や委員会の議事録の分析、他の団体が要望していたのか否か、当時の担当職員からのヒアリングが必要だと思っています。今回は管理職にもヒアリングをしたのですが、どのように制定されたのかはメインではなかったので聞いておりませんし、会話の流れからも話は出てきませんでした。福祉職採用の継続の有無も当初から検討されることになっていたため、今回の調査と合わせて、どうして実施されるようになったのかも分析しなくてはいけないと思っております。

12. 貧困・低所得者福祉(オンライン)

E14-01
「論争中の病(contested illness)」の患者とその家族への支援について
― ソーシャワークのグローバル定義とグリーン・ソーシャルワークの視点からの考察 ―

○三島 亜紀子(立命館大学生存学研究所)

質問1
小平 梨香(無所属(小学校勤務))
はじめまして
私は前年度大学院修士課程を修了たものです。
論争中の病Contested illness を患う患者生きづらさについてをテーマに当事者にインタビューをして修士論文を執筆いたしました。

三島先生のポスターを興味深く読ませていただきました。グリーンソーシャルワークについて恥ずかしながら初めて知りました。今後の研究の参考にさせていただけたらと思います。よければ参考になる文献教えていただけませんか?
回答
小平梨香様

はじめまして。
メッセージをいただき、ありがとうございます。
contested illnessをご研究されているとのこと、大変心強く思います。

ご質問いただきました件につきまして参考文献に上げました、以下のドミネリ氏のものに加えまして、
雑誌『ソーシャルワーク研究』の特集 「グリーンソーシャルワーク/環境ソーシャルワーク」の尾崎氏の論文を読みましたら、公害問題に関するソーシャルアクションの歴史もつかんでおく必要性を感じたりしました。

Dominelli, L. (2012) Green Social Work: From Environmental Crises to Environmental Justice, Polity Press. (=2017, 上野谷加代子・所めぐみ監訳『グリーンソーシャルワークとは何か――環境正義と共生社会実現』ミネルヴァ書房.)
Dominelli L. (2019)「グリーンソーシャルワーク――日常的ソーシャルワーク実践のための視点」『ソーシャルワーク研究』45(2), 105-113.

公害問題とソーシャルワーク (特集 グリーンソーシャルワーク/環境ソーシャルワーク)
尾崎 寛直
ソーシャルワーク研究 : 社会福祉実践の総合研究誌 45(2), 123-130, 2019

個人的にはこれまでソーシャルワークの専門職化や理論化の歴史について研究してきましたが、今回の研究は、シックハウス症候群の患者の家族の当事者ということもあり、手探りの中進めているものです。
文章にしたものが、障害学会のHPで閲覧できるようになりました。
http://www.arsvi.com/2020/20200919ma.htm

「「論争中の病(contested illness)」の患者への合理的配慮――シックハウス症候群・化学物質過敏症と社会モデル」
三島 亜紀子 2020/09/19
障害学会第17回大会報告 ※オンライン開催

ご関心がございましたら、ご笑覧ください。

今後とも、よろしくお願いいたします。

三島亜紀子
akijco@gmail.com

14. 医療保健・医療福祉(オンライン)

E16-09
オンライン活用によるソーシャルワーク実習プログラムの検討
― 新型コロナウィルス感染症の発生に伴う実習対応から ―

○灰谷 和代(東北公益文科大学)

質問1
渡邉 宣子(医療法人樹光会大村病院 社会福祉部教育企画室)
 私自身、実習中止になり学内実習となった場合に協力してほしいと言われていますが、オンライン実習プログラムを見せて頂き、出来ることはあるとは思いますが、このプログラム案が実施出来れば時間数はクリアしたとされるのでしょうか?
 オンライン実習の想定は、通常実習が中止になった時に、当該実習先の実習指導者に依頼するのでしょうか?私は通常実習はなしです。実習生や実習担当教員との打ち合わせ、日程調整をどうするのか課題です。(中止になってからオンライン実習の調整を行う。)これらの点についてどうお考えかアドバイスを頂ければと思います。
 感染拡大でその地域の事業所が一斉に実習中止することあると思うが、大学間の連携で、実習指導者の有効活用をすることは考えておられますか?(プログラムによっては、1対1でなくても、1度に複数の学生に対して対応可能なものもあると思うのですが…。
回答
 新型コロナウィルス感染症の発生に伴う実習対応として、①~⑤の実習パターンが考えられました。
①実習先現地での実習
②実習先現地での実習とオンライン実習を組み合わせた実習指導者主導の実習
③オンライン実習のみの実習指導者主導の実習
④大学(養成校)の実習担当教員主導の実習
⑤その他、状況にあわせて検討し実施する実習
 ①は通常の実習です。実習先現地での実習受け入れが可能なパターンです。主に実習先の実習指導者が、実習担当教員と連携しつつ学生の実習計画に応じていく形で実習を進めます。②と③は①の代替ですが、実習先の実習指導者主導の実習となります。そのため①と同様、実習指導者は実習担当教員と連携しつつ、学生の実習計画に応じて現地実習もしくはオンライン実習を進めますが、①以上に大学内および大学と実習先との事前打ち合わせや連携が必要となるパターンです。実習事務手続きも①と同様、大学と実習先が契約し、出勤簿や実習日誌や評価表は必要に応じて電子データ化しても通常実習と同様のものを使用します。④は大学の実習担当教員主導の実習です。主に教員が実習プログラムを考えます。教員や実習指導者による演習やゲスト講師による講話等を組み合わせていくことが考えられ、一部もしくは全ての実習をオンライン活用による実習になることも想定されます。実習内容によっては実習日誌等の様式変更が必要になります。⑤は①~④だけでは当てはまらない場合に、例えば①~④を組み合わせた実習を検討する等、状況にあわせて検討し実施していく実習です。
 今回のE-ポスター発表では、②や③のパターンでのオンライン実習が、①の通常実習に少しでも近い実習になることをめざして実習先の実習指導者と事前に検討した内容を報告しました。そのため、本報告にある実習プログラムの場合、実習事務手続きは①と同様となり、実習先が学生の実習を評価し実習時間数も実習先に認めていただくことになります。また、先の見えないコロナ禍では、急遽、実習途中でも実習の中止も有り得るため、実習開始前から実習先の変更や代替実習を常に想定しておく必要があると考えます。
 本報告のオンライン実習プログラムでは、実習先と他の福祉施設等の連携先が多数あれば、より充実した実習内容になることが考えられ、また「プログラムによっては、1対1でなくても、1度に複数の学生に対して対応可能なものもある」というのは、実際、その通りであり、本報告の実習先との検討でも、一度に複数の学生対応が可能なコンテンツが多数ありました。そのため、今後、大学間の連携等が広がれば、他地域での実習および他大学の学生との実習による学びも実現できるのではと考えます。

16. 社会福祉教育・実習(オンライン)

E17-01
学生と地域住民とのワークショップの取り組みを活かした防災グッズの開発

○城戸 裕子(愛知学院大学心身科学部)

質問1
山田 裕一(立命館大学衣笠総合研究機構生存学研究所/近畿大学九州短期大学保育科/発達協働センターよりみち)
興味深いご報告ありがとうございます。
ワークショップの内容に大変興味があります。もしよければ差し支えのない範囲で、詳細な段取りややり方、どのようなことに留意して実施したのか等教えていただければと思います。
発達障害者の災害時の課題を抽出するのに参考にさせていただければと考えています。
よろしくお願いいたします。
回答
山田様
初めまして。愛知学院大学 城戸です。
①ワークショップの段取りについて
2012年度より、学生と共にボランティアに毎年、伺っている場所です。
そのため、現地の自治体並びに関係機関との協力関係が整っております。
これからの活動として、ボランティアという位置づけと合わせて防災教育、減災教育に今後、シフトしていく必要があるという相互理解の元、企画書を提示し、訪問(これは、かなり早い段階で行いました。)に協議させていただきました。
地域周知として、ポスター作製し、配布、掲示を行っていただきました。
②留意した点
・茶話会の要素も取り入れ、緊張感を和らげるように致しました。(茶話会のお菓子は学生が選択し、一つ一つラッピングしました。)
・参加者の年齢層(学生と同年齢も視野に入れましたが、幅広い年齢層から聞くことから学ぶことがあると思い、年齢要件は外しました。同年代、やや年上、既婚者、親世代、高齢者、市会議員など幅広い分野の方々がお集まりいただけました。)
・震災後、年月が経っているとはいえ、辛い体験を話してくださることからの心的ストレスを考慮し、臨床心理士などの心理の専門家をスタッフとして位置付けました。
・参加学生は、希望者でしたが実際にボランティア活動(地域のまちづくりのイベント)や震災遺構を見学する機会を設け、震災時の状況を学ぶ時間を事前にスケジュールに取り入れ、学びの時間を設けました。
まとめの時間をワークショップ後に行い、学生の記憶の想起を行いました。
・Instagramを開設し、ボランティア先や他大学との情報交流と発信の機会を設けました。
・グループメンバーの構成は、複数回のミーティングを重ねておりましたので、その中での発言や学年などを総合的に考慮しました。
・ワークショップについては、最終的ゴールが「防災グッズの作成」でしたので震災時に必要なものというテーマで、自由に語っていただき、それらを可視化するために付箋で書いて、類似したものをカテゴリー化しました。
・学生主導で行い、教員はあくまでも補助的に位置で対応しました。

お答えになっていますでしょうか。
現場から学ぶこと、体験、想起・・などを複合的に行うことやあまり教員が口や手を出さないことが良いのかもしれません。

良い形でワークショップが開催されると良いですね。