会長挨拶

一般社団法人
日本社会福祉学会
第8期会長 空閑浩人

 「社会福祉学」とは「実践の学問」であると言われます。私にとってそれは、「価値に基づいて連帯し、行動する学問」のことです。その意味で、社会福祉学とは、社会のあり方に対して影響を与え得る学問であり、またそうでなければならない学問であると考えています。

 さて、私たちが生きて暮らす今日の社会は、一人ひとりの「尊厳」が保持され、人々の当たり前の「権利」が守られている社会でしょうか。そもそも「社会福祉」という言葉が意味する「社会の一員としての個人の幸せや生活の安定」が、誰に対してもきちんと保障されているでしょうか。人々の多様なあり様や生き方に対して寛容であり、互いに認め合う社会となっているでしょうか。私には、現在の世の中が、社会福祉が求めて目指す方向とは逆の方向に向かっているような気がしてなりません。

 少子・高齢化や人口減少、家族形態の多様化のなかで、社会福祉を取り巻く状況が様々に変化する時代に私たちはいます。産業構造や就業構造の変化に伴う不安定な就労条件や非正規雇用の増大、低所得や貧困問題の広がりがあります。地域における血縁や地縁に基づく人々のつながりの希薄化や共同体機能の脆弱化、様々なかたちでの差別や分断状況の発生、生活だけでなく生命の危機をもたらす大規模災害の発生があります。言わば、人々の生活の安定を揺るがす様々な社会問題が発生する時代に、私たちはいます。そのような社会状況の動きや変化のなかで、人々が様々な生活問題や生活課題に直面している状況があります。

 そして、2020年からのコロナ禍において、孤独・孤立の問題や生活困窮の問題が一層深まり、顕在化しました。ウイルスへの感染が自己責任とされ、感染者が偏見のまなざしを向けられ、差別や排除されるという事態が生じました。特に2020年は自殺者数が11年ぶりに増加したと報じられ、特に子どもと女性に多かったとされています。コロナ禍の中で生じた様々な生きづらさが、特定の層に集中して現れたことを示しています。社会の一員として、すなわち地域の、職場の、学校の一員として、あるいは家族の一員として生きるという、その基盤となるものが脅かされ、多くの人々が他者や社会との安定したつながりを失って、深い孤独や孤立を強いられる状況があります。

 このような様々な生きづらさや生活のしづらさが蔓延する社会が、このままで良いわけがありません。私たちが生きる社会は、どのような社会であるべきなのか、私たちはどのような社会を願うのか、実現するべきなのか、そして未来に遺すのかが問われていると思います。現在が不条理で理不尽な世の中であるならば、そのあり方に異を唱え、抗う社会福祉学でなければならないと思います。そうでなければ、社会は良くならないと思います。この時代や社会状況のなかで、社会福祉学に何ができるのか、何をするべきなのか、その意義や役割、使命を、問い直し具現化する学会活動を進めていきたいと思います。

 本学会は2024年に設立70周年を迎えます。学会の歴史のなかで、節目のときを迎えつつあります。歴史と伝統ある本学会と社会福祉学の継承と発展のためには、学会の役割としての会員への支援が必要と考えます。若手研究者の研究活動、キャリア形成のための支援や、介護や育児をしながらの研究活動、教育、実践活動の支援も必要だと考えます。会員が相互に学び合い、支え合って、社会福祉学を前に進めるために、全国大会やフォーラムの開催、学会誌の発行、地域ブロック活動など、そのための様々な事業の企画・実施を、会員の皆様からの意見を大切にしながら取り組んでいきたいと思います。

 今こそ、学問としての社会福祉が求められる時代です。このような「社会福祉学」を、多くの方々とともに学び合いたいと思います。ぜひ、私たちとともに。