【第9回】子どもの声を聴く子ども支援(麗 麗)

子どもの権利条約総合研究所特別研究員
麗 麗

自己紹介

 私は、中国・内モンゴル自治区出身のモンゴル人です。2009年3月に来日し、日本語学校を修了後、東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻博士前期課程に進学しました。その後同専攻の博士後期課程に進学し、2021年度に学位請求論文を提出、社会福祉学の学位を取得しました。在学中には、学内の多くの研究機関や教育現場において、チューターやリサーチアシスタント、研究支援員として活動し、研究者としての基礎を学んできました。また、世田谷区役所で若者支援嘱託員として5年間現場の仕事に携わってまいりました。

研究内容

 近年の中国では子どもの出生率の低下が続き、新生児人口の上昇がみられないにもかかわらず、子どもが命を失う事件が少なくありません。日本と中国において子どもがおかれている環境は大きく異なりますが、子どもたちは国籍に関係なく、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利を有することが「子どもの権利条約」に定められています。日本と中国はこの条約の批准国となっています。
 博士論文では、子どもの権利条約の理念の一つである参加の権利を保障するための支援のあり方を、中国社会の近代化のなかで生じている農村留守児童の問題に焦点をあて検討しました。経済発展のなかで農村に残された子どもたちの抱える課題は深刻です。農村留守児童の問題は、経済、戸籍制度、貧困、家族、地域など様々な要素が絡み合って発生している問題であり、対象規定自体が変化するため、子どもの実態を把握することは困難でしたが、既存の刊行されている文献や調査から歴史や子どもの抱える問題を明らかにしました。また、農村留守児童対策の重点施策と考えられている農村寄宿制学校の成立と実態について、民族学校などに残された資料などを整理し、その機能が農牧地域での役割と農村留守児童などの支援機関として期待される役割等では変化していることをも実証しました。さらに、農村留守児童自身へのアンケート調査とインタビュー調査を行い、子ども自身が調査に参加することによって子どもの暮らしの実態を明らかにするという手法をとりました。子どもたちが安心して語ることができる場を作り出し、話を聴いてほしかったこと、信頼できる大人に訴えたいことなどを聞き取ることによって、子どもたちに自分たちの困難状況を理解してもらい、その解決についての期待を委ねることができました。このことは、子どもたちが話を聴いてもらう大人がいることの重要さに気づくことになり、彼らへの意見表明を尊重した支援のあり方を提案することができました。

当学会へのリクエスト

 本学会は、学生会員にとって知識や情報をインプットとアウトプットできる場であり、同分野でも様々な視点をもつ研究者との出会いの場であることが魅力的であります。日本は、多文化共生社会の実現に向けて、多様な国々の社会福祉を研究している研究者に対し長期的な視点をもつ必要があるでしょう。また、初期キャリア研究者に対し、今後のキャリアアップに必要な研修や評価体制などの情報共有をしていただけたらとても嬉しく思います。