【第2回】福祉人として生きる(松尾 敬子)

同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士課程後期
内閣府国際平和協力本部事務局 研究員
国際連合人間居住計画(国連ハビタット)アフガニスタン事務所 人間居住専門官
松尾 敬子

自己紹介

 同志社大学で共に学ぶ庵原美香さんからバトンを受けました。心優しい彼女の友人でいられることに感謝しています。私は、博士課程の4年目に在籍しつつ、内閣府で研究員をしています。同時に、現在は長期休暇中ですが国連職員でもあります。

これまでの経歴

 私は、中学生の頃から、民生委員であった母について地域活動や一人暮らしの高齢者へのお弁当配達などを経験しました。それからは福祉の道を進むことに何らかの確信を持ちつつ、同志社大学の社会福祉学専攻へ入学し、修士課程までを終えました。児童養護施設や母子生活支援施設などでも勉強させていただき、大学の先生方、施設の先生方、そして利用者の方々に「人の生に寄り添って生きること」を学びました。これが福祉人として生きる根幹なのだと今でも信じています。

 その後海外の大学院で勉強したり、日本の行政機関や国連で働いたりしました。2012年から2020年までは内戦後のスリランカやテロのやまないアフガニスタンで過ごしましたので、常に死と隣り合わせにある人生を目の当たりにしました。格好いいことを言うようですが、このような状況にあると、死そのものよりも、自分なりの努力や挑戦をしない人生に恐れを抱くようになりました。そのような思いの中、コミュニティを走り回り、ホスト国の行政官と交渉し、現地職員の同僚と喧嘩しながら、その国の未来を見据えて平和の下地作りをする仕事は大変やりがいがありました。

研究内容

 今は、その現場での経験をアカデミックに検証したいと考えています。ピープルズ・プロセスという国連ハビタット(都市や居住に関する問題を扱う国連組織)固有の住民参加型事業手法に着目し、紛争後の被災コミュニティにおいて、住民達がどのように復興や平和構築に携わってきたのかということを社会福祉学の視点から分析しようとしています。アカデミックな世界から離れて随分と時間が経ってから博士課程に入学してしまったので、今なお不安はありますが、ゼミや学会での討論は大変刺激的で、ふと気が付くとその時問題となった事柄をずっと考えてしまっています。学業に戻ってくることが出来、本当に恵まれた時間を頂いています。

これからの展望

 2021年の夏頃からは、研究を続けつつまた国連に戻り、今度はスイス・ジュネーブでリプロダクティブ・ヘルスやジェンダー・ベースド・バイオレンスに力点を置いた仕事をしている予定です。どこにいても、どんな仕事をしていても、私は人々と生を共にする人間であり職業人でありたいと思っています。一緒に仕事をしているコミュニティやその成員が、自らの将来を自ら描き、作り出し、それを次世代に受け渡していくためのサポートをしながら、福祉人として精一杯力を尽くしたいのです。そして、いつかは自分がしていただいたように次世代が育つための教育に携わることが出来ればと考えています。日本の社会福祉学で紛争地や国連での実践を扱う研究はそれほど多くはありませんが、分野に限定されず、学会の多くの方々から教えを請うことができれば幸いです。またこのように若手が発信できる場を多く頂ければ大変有難く存じます。