【第5回】自身を振り返って(熊谷 良介)

熊谷 良介

北海道大学大学院教育学院博士後期課程
熊谷 良介

自己紹介

 私は秋田県の田舎で生まれ育ちました。そして大学のある北海道は札幌市で生活し始め、人生の3分の1は札幌で暮らしています。大学入学当初は漠然と教員になるのかなという気持ちでしたので、専攻も何も考えていませんでした。学部2年生の時に受けた講義の中で一番心に引っかかったのが、現在もお世話になっている教育福祉ゼミでした。
 私の育った家庭は祖父母同居の母子世帯でした。そして今振り返ってみても何不自由ない生活を送ってきました。一方で大学の講義では、母子世帯として生活していく難しさが存在していることを知りました。自身が当たり前に経験してきたことは、そうではないことを考えさせられ、そしてもっと母子世帯を取り巻く問題について考えていきたいと思ったのが、私の研究生活の原点になります。

研究内容と研究分野

 日本においてひとり親家庭、特に母子家庭の貧困率が高いということは多くのメディアでも指摘されています。そうした中で、ひとり親家庭に対する支援の大きな部分を占めるのが就労支援となっています。このひとり親家庭における親の就労という点について議論していくのが私の研究テーマの中心になります。
 母親が就労するためのハードルとして、低学歴であることや、離婚により中断されていたキャリアを再構築しなければいけないということなど、多くの議論が蓄積されています。加えて親は仕事だけでなく、子どもの世話を含めた家事労働にも時間を割く必要があります。この時間のバランスをいかに調整できるかによって労働可能な時間を確保できるかどうかが決まります。つまり親の労働時間の議論をするためには、それ以外の時間がどうなっているのかが重要になります。こうした時間をどのように調整しているかということは、子どもの生活にも直接関係します。子どもの日々の生活の中で親と関わる時間は労働時間によって定まり、また親ができない家事労働を子どもが担うという場合もあります。
 私の研究は、親の就労について親と子どもをどちらも当事者として捉え、実際に親と子どもはどのように日々の時間を使っているのか、それはどのような認識の下で行われているのかを明らかにしていくものになります。母親の就労について子どもの存在も含めて議論するということは少ないのが現状です。しかし、母親が実際にどれほどの労働時間を確保できるかということは、子どもがどのように生活しているのかと併せて議論することが必要です。また、こうした議論を通じて、より現実に即した就労支援や整備すべき雇用環境を議論できると考えています。

学会の魅力

 コロナ禍の中、福祉の現場がどうなっているのか直接知る機会というのが、特に学生や研究における初期のキャリアにある人にとって限定的になったと思います。普段の業務に加え感染対策にも取り組まなければいけない現場の皆さまにお時間をいただくことは、現実的にも心情的にも難しいと感じています。そうした中、学会を通じて現場の実践報告等を目にすることができるのは貴重な機会だと改めて実感しております。