【第11回】過去から未来へ向けて(米田 美紀)

一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程
米田 美紀

自己紹介

 幼少期から人にかかわる仕事、社会福祉や医療の道に進みたいと考えていました。 振り返れば、家庭の事情や疾病・障がいを抱えた人と幼いころから縁があったのかもしれませんが、直接的なきっかけは、自身と家族の精神疾患の発症により当事者・当事者家族となったこと、通信制高校への進学でした。
 中学で発症し、初めての精神科で精神保健福祉士と出会いました。高校は定時制に進学したものの通えずに中退し、通信制に再入学。5年間の高校生活では、抱える環境も年齢もさまざまな人との出会いがあり、いろいろな人の生き方や自ら学ぶ楽しさを知りました。そこでの時間は私にとって社会福祉(精神保健福祉)を学びたい思いの後押しとなり、今も日々の生活はもちろん、福祉を深める上でもかけがえのない財産となっています。
 大学では症状が安定せず、資格を取っても実践に進むか否か悩んでいたところ、恩師が研究の道を勧めてくださいました。社会福祉は実践だけではなく研究も大切だと教えていただき、その立場を通じて何かできたらと、修士課程、研究生を経て現在の博士課程に進学し、研究を続けています。

研究内容

 近現代のドイツや日本における障がい児者の歩みについて研究しています。
 とりわけナチス政権下で数十万人もの障がい児者が殺害された「安楽死」作戦と、その後の障がい児者の権利擁護の歩みについて、ある施設を中心に調べています。新型コロナの流行前にはドイツに足を運び、各地で史資料を集めたり、研究者の方にお会いしたりしました。現在は、日本にいながら文献や資料を取り寄せたり、メールなどでドイツや日本の研究者の方や資料館の方とやり取りをしつつ進めています。修士論文はドイツのみでしたが、現在の所属ゼミが日本史専門であること、日本の福祉や医学はドイツからも影響を受けていることなどから、博士論文では同時代の日本の障がい児者にもふれたいと考えています。
 歴史研究と捉えられますが、私は今にも通ずることとして取り組んでいます。また、当時であれば障がいや疾患を抱えた家族や友人、そして私自身も殺されていたかもしれないという思いもあります。権利をまもるために理念や制度がどれだけつくられても、それを踏みにじるような思想や言動はふとしたときに顔を出すと私は感じています。それが露骨にあらわれた状況で、社会福祉や医療の立場の人々はどうしていたのか、今もこの先もどうするのか。研究を通して考えていきたいです。

当学会へのリクエスト

 学会員のつながりを得られる場や研究に関する情報提供がもっとあるとありがたいです。
また、社会福祉は専門家と実践者という形に二分してしまっている面もあると思うので、学会(研究)と実践現場がかかわれる機会があると、理念と実践がよりよく合わさっていくのではないかと考えています。