【第15回】小児がん患者の治療終了後のウェルビーイングを目指して(菱ヶ江 惠子)

山口県立大学社会福祉学部 講師
 菱ヶ江 惠子

自己紹介

 はじめまして、菱ヶ江惠子(ひしがえけいこ)と申します。佐賀県出身で、地平線まで真っ平な佐賀平野でのびのびと育ちました。大学で社会福祉学を学んだあと、医療ソーシャルワーカーなどを経て大学院へ進学し研究の道に進みました。専門は医療福祉です。
 特定の宗教を深く信仰しているというわけではありませんが、偶然にも高校は仏教系の学校、大学はキリスト教系の学校でした。高校、大学での授業を通し、人が喜びや苦しみを抱えながらどう生きるかということや、死の捉え方などについて学び、宗教観がどのように人の気持ちに影響を及ぼすのかを考えるきっかけになりました。調査の中で、闘病経験のある方々からお話を聞かせていただく際にも、当時の学びを振り返ることがあります。 

研究内容

 主に小児がん経験者の支援をテーマに研究を行っています。小児がんというと「不治の病」というイメージがもたれがちですが、医療の進歩に伴い治癒率は約8割となり、今や治る病気となっています。その一方で、成長期に抗がん剤などの強い薬が投与されることで晩期合併症と呼ばれる別の疾病を発症することがあります。また、入院中に教育の機会が保障されなかったりすると、復学、進学、就職の際に困難が生じることもあります。心理的な側面では、大きな病気を経験した自分をどのように受け止めてよいか悩んだり、孤独を感じたりする人もいます。
 そこで、具体的にどのような困りごとを抱えているのかを研究したり、どのような葛藤や希望を抱いて患者会へ参加に至ったのかを研究してきました。当事者たちは患者会への参加に際し、自分が小児がん経験者であることを思い知らされるのが怖い、参加することで自分が何か変わることができるのではないか、などの不安や期待を抱いていることがわかりました。また、参加することでそれまでの病気のとらえ方が覆されるなど、治療終了後の長い人生を歩んでいくうえで転換期ともなる可能性があるとわかりました。現在はサポートプログラムという形での支援方法を研究しています。

当学会へのリクエスト

 他の研究者がどのように研究、教育、学務のバランスをとっているのかを知ることができるような交流の機会があると嬉しいです。教員4年目となり教育活動には慣れてきましたが、社会福祉士養成課程における実習や演習など、講義科目とは異なる負担があり、コンスタントに研究するための先輩方の工夫などを参考にさせていただきたいです。
 また、学生の卒業論文執筆に対する意欲的な姿を見て、ソーシャルワーク実践と研究活動を両輪でできるようなソーシャルワーカーになってほしいという思いが強くなりました。そのため、学部生向けのイベントの開催や、学会での口頭発表や論文発表をしやすくなるような学部生向けの会費制度があると、学部生に対して学会を紹介しやすくなります。