【第5回】多様な関係性を重視する社会へ(越前 聡美)

越前 聡美

東洋大学社会学部社会福祉学科・助教(実習)
越前 聡美

自己紹介

 北海道札幌市出身です。東京に来て10年経ちますが、誰よりも寒さに弱く道産子と名乗れないのではないかと感じる日々です。札幌にある北星学園大学の出身で、ここで福祉の世界を知ることとなります。北海道は過疎地域が多いことから、人口減少社会における福祉の在り方についてフィールドで学ぶことが多く、そこで地域と福祉の関係について関心を持つようになりました。一方で、大学生時代は留学生との交流をメインに過ごしており、多様な文化やイデオロギーに触れる機会が多く、これらの経験が大学院へ進学してからも良い学びにつながっていったと思います。多様な人々との価値観を理解していくこと、これこそが社会福祉における人間理解の第一歩だと感じています。

研究内容と研究分野

 これまで社会福祉の歴史研究に着目をし、人々が生活してきた歩みを「社会的側面」と「生活的側面」を総合的に検討する視点の重要さを学んできました。2021年度より実習助教として着任してからは、ソーシャルワーカーを目指す学生さんの指導を行う中で、これまでの自身の研究と照らし合わせる作業も行いました。そのなかで、「社会的側面」と「生活的側面」を総合的に検討する視点、これらはソーシャルワーカーが、クライエントの状況や各国が抱えるさまざまな社会背景への理解など包括的に把握することを自覚的に行われることと関連してくると考えます。一方、自身の研究についてですが、とりわけ「生活的側面」に着目をする中で、研究対象としては戦前の農村社会における産業組合、産業組合婦人会、保健婦事業に焦点をあて、地域の中で福祉的課題を抱えられている人々にどのような互助的な支援が展開されていたのかを検討しています。昭和初期の農村を中心に発展した産業組合に設立された産業組合婦人会と産業組合保健婦事業の理念や事業を検証し、これらの地域に根差した活動の意義を考察することで、現代でいう「互助」と「共助」がこの時期にはどのような意味を有していたのかを明らかにしたいと考えています。

当学会の魅力

 当学会は60年以上の歴史を有し、戦後の激動の時代を多くの人々とともに乗り越えられ、現在の福祉を学ぶ私たち世代に多くのことを残してくださったと思います。当学会は、戦後の新憲法で規定された憲法前文の趣旨を踏まえながら、憲法第25条で期待された理念の具現化を求め発足したと学びました。他方、『社会福祉学研究の50年』(日本社会福祉学会編)が発刊された2004年の際は、50年前の理論と理論的枠組みでは対応できないところにきており、21世紀の今後の活動を活かしていくためには、当学会がどのような理念で発足し、その理念の具現化であったのかを問う必要性を述べています。当学会が長い時間をかけながら一貫してヒューマンセキュリティ(人間の安全保障)を考え、国内外の多様な研究者、実践者が活躍されている学会であるということが一番の魅力ではないでしょうか。

当学会へのリクエスト

 コロナ禍になり、多くの人々がこれまでの生活とは異なる価値観に立脚することとなり、それに伴い社会福祉が対象とする課題がより複雑化してきています。ますます世界各地で生じている社会問題と自分たちの身近にある課題を同時に受け止める力、それに対応する力が私たち社会福祉を学ぶ人間には求められているのではないでしょうか。そのような意味からも、多様な世界の国々の研究者から先駆的な実践を学ぶ機会がより一層増えれば、私たちの福祉実践の意味についても深く考えることができるのではないかと考えます。