【第1回】国際会議「人々のグローバル・サミット」報告(Virag Viktor)

国際会議「人々のグローバル・サミット」報告

国際学術交流促進委員会 委員
Virág(ヴィラーグ) Viktor(ヴィクトル)(日本社会事業大学)

 社会福祉・ソーシャルワーク分野の主要な国際大会として、国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)、国際社会福祉協議会(ICSW)、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)は、隔年の合同世界会議を開催してきた。コロナ禍の影響を受けて、2020年よりこれらの団体の国際会議はオンラインで開かれるようになったため、途上国の研究者・専門職のみでなく、当事者や一般の人々にとっても参加しやすい実施が可能となった。前代未聞の参加規模と多様な立場からの視点の反映によって、ソーシャルアクションの一手段として国際会議を位置づける側面も強くなってきている。

 2022年6月29日と7月2日の間に開催された「人々のグローバル・サミット(The People’s Global Summit)」もこのような代表的な会議であった。包摂的で、多様な参加を促すために、プログラムは時差に関係なく24時間体制で進み、参加費も無料から75米ドルまで所得に応じて様々な区分が設けられた。サミットの発起団体はIFSWと国連社会開発研究所(UNRISD)であったが、研究・専門職団体の他に、当事者団体や運動団体を含む20以上の連携組織の協力による開催に至った。社会福祉・ソーシャルワークに関連しているパートナー団体の中に、IFSW以外でも、IASSW、ICSW、英連邦ソーシャルワーク協会(COSW)、グローバル社会サービス人材同盟(GSSWA)、国際コミュニティ開発協会(IACD)、ラテンアメリカ社会科学協議会(CLACSO)、グローバル公的サービス職員組合協会(PSI)、ヨーロッパ・ソーシャルワーク研究協会(ESWRA)のソーシャルワーク倫理研究グループ(SWERG)などが含まれた。他のパートナーは、国連関係機関、学生団体、保健医療専門職団体を含み、その会員数を合計すると、数億人に上る。

 サミットのテーマは「新しいエコソーシャル世界の共同構築:誰一人も取り残さない」として設定された。上述のように多様な信仰、哲学、権利運動、専門職、伝統、文化の人々の間で架け橋となることで、サミットの目標は、社会・環境正義に向けて、持続可能性と生活の質の実現ための新しい社会の在り方を模索することであった。この多様性と目標を踏まえて、会議運営及び将来の展開を方向づける4つの価値・原則は、①ブエン・ヴィヴィール(Buen Vivir)[1]、②尊重、③多様性、④ウブントゥ(Ubuntu)[2]であった。プログラムは26の基調セッションと15のライブ・パネルに加えて、37の分科会にわたる様々なプレゼンテーションから構成された。会議の特徴の一つとして、従来の学術及び調査・研究報告、ポスターなどの他にも、芸術作品(ダンス・歌、詩やスピーチ)、ブログ、インタビュー、ぺちゃくちゃ、TEDなどの多様な形式による発表が可能であったことを挙げることができる。包摂性の観点から、多くのセッションとプレゼンテーションの動画記録は、サミットのYouTubeチャンネルで公開されており、視聴できるようになっている。特に注目される基調セッションとライブ・パネルは以下の通りである。

  • 開会式(国連事務総長挨拶を含む)
  • 「気候正義まで人々が歩む道」
  • 「新しいエコソーシャル契約のための研究と行動の活用」
  • 「ポスト・パンデミックの世界において<若者>に関する諸原則の見直しと取り戻し」
  • 「より良い世界のための質の高い公的サービス」
  • 「社会変革の共同構築におけるソーシャルワーカーの経験」(IFSW主催)
  • 「エコソーシャル世界のための新しい社会契約」
  • 「取り残された人々:極度の依存、芸術と居場所」
  • 「ケアと生活の中心性」
  • 「協働型ソーシャルワークによる新しいエコソーシャル世界の共同構築」(COSW主催)
  • 「成長の限界と保健医療への影響」
  • 「新しいエコソーシャル世界の必要性」
  • 「コロナ後の社会政策、気候変動とベーシックインカム」(ICSW主催)
  • 「集団的アイデンティティの再検討:統一性、多様性と新しいエコソーシャル世界のための基盤」
  • 「誰一人も取り残さない:カリブ海地域における現実の直視」
  • 「ケア・保護・支援システムにおける社会サービス人材の主要な役割:誰一人も取り残さないために」
  • 「パンデミックを越えて:新しいエコソーシャル世界へ貢献できるソーシャルワーク倫理及び価値の検討」(SWERG主催)
  • 「現代のグローバルな課題における民主主義と人権のための市民社会のエンパワーメント」
  • 「新しいエコソーシャル世界における実践への移行」(IFSW主催)
  • 「不平等な世界の経済的・金融的な背景」
  • 「ラテンアメリカにおけるエコソーシャル移行に向けて」
  • 「社会契約の問題:市民と国家の関係を正すために」
  • 「平和と連帯のためのソーシャルワーク、暴力と戦争に関する支援・対応」(IASSW主催)
  • 「誰一人も取り残さないための社会サービス人材への支援」
  • 「ガヴァナンスと規制における協働のための参加促進」
  • 「世界各地におけるソーシャルワークの役割及び実践へのコロナ禍の影響」(COSW主催)
  • 「私たちの未来を切り捨てないで:将来のための公平で、持続可能で、包摂的な教育」
  • 閉会式(国連貿易開発会議事務局挨拶を含む)

なお、本サミットの主たる目的と実際の成果の一つは、『エコソーシャル世界のための人民憲章』の採択であった。本憲章は、持続可能な世界においてすべての人々が信頼、安全、平和の下で暮らせるために、全人類が共に直面している課題に対する解決策について世界中の人々が共有することによって、成長する生きた文書及び参考資料として位置づけられている。憲章は、第二次世界大戦の終戦時や国連設立以来の平和・開発・人権の実現に向けた新しいグローバルな価値の構築というヴィジョンを描いている。その中で、コミュニティ主導の社会及び環境運動が与えてきた、また世界中の先住民族の知にも見出せる精神を認めている。したがって、サミットと同様に、以下のような価値と原則を基盤としている。

【ブエン・ヴィヴィール】人々と地球に対する愛と思いやり、責任とホリスティックな権利[3]
【尊重】尊厳、調和、社会正義
【多様性】帰属性、互恵性、公平性
【ウブントゥ】一体性、説明責任、共同性、連帯、平等、包摂性、協働

 人民憲章が持続可能な未来のために与えている示唆は、①互恵性の共同開発(人々の尊厳に基づく肯定的な変革)、②平和の共同構築(信頼、多様性尊重、相互理解に基づく協働)、③自然との共生(自然界への権利、例えば法人格などの付与)、④社会正義の共創(インフォーマット・フォーマル支援システムの統合)、⑤平等の共同実現(差別なく生きがいと自己実現の保障)の5点に集約された。また、今後の展開、すなわち一緒に取り組める行動としては、以下の5つのアクションが示された。

  • 生態系の一体性:搾取から自然界の権利の認識へ
  • 経済改革:利益追求からウェルビーイング社会へ
  • 国際連帯:国家的な内向性からグローバルな協力へ
  • 雇用と就労:過小評価から尊厳ある就労環境を伴う認識へ
  • 国家的な社会的保護:対処型支出から予防型投資へ

  • [1] 社会・文化・環境・経済などの課題が、別々に・階層的にではなく、共にバランスよく働くという生活様式や開発形態を提示している南米先住民族の社会運動。
  • [2] 人々と取り巻く環境の相互依存性や相互関係性に基づいているアフリカ固有の哲学(「我々が存在するから、私も存在する」)。
  • [3] 個別の人権(尊厳と基本的な自由権)、社会的な人権(市民的・経済的・政治的な権利)、生態系の権利とより広義の自然の権利を認めている権利枠組み。