日本社会福祉学会 第68回秋季大会

特定課題セッションの各テーマおよび趣旨

特定課題セッション I

■テーマ:
ソーシャルワークから今一度、ソーシャルポリシーへ
―司法と福祉の連携から―
■コーディネーター:
大西 次郎(大阪市立大学大学院)

■テーマ趣旨:
 2021年4月から始まる社会福祉士の新カリキュラムにおいて、「刑事司法と福祉」が精神保健福祉士との間で共通科目化される。もともと社会福祉学は自立生活への支援を図るソーシャルワークと、社会の統合発展を目指すソーシャルポリシーにまたがり結び付いてきた。近代においてその比重はソーシャルワークへ傾いてきたが、ソーシャルポリシーに向けた巻き戻しにもうつる、「法・制度や社会防衛」に直結した司法との連携は注目される。
 もちろん、刑事司法は犯罪ならびに再犯の防止に重要な目的を置いており、クライエントのウェルビーイングを目指す福祉とは理念を根本的に違える。ましてや、「『福祉』の領域が、非行・犯罪のあるものを自らの支援対象から除外してきた歴史的経緯」(日本社会福祉士会)さえ指摘されるなか、司法と福祉の連携は ―その必要性に疑問の余地はないものの― 福祉専門職と行政の間のパワーバランスに留意せねばならない。
 というのも、すでに「刑事司法と福祉」の前身である「更生保護制度」のカリキュラム化(2009年4月)に際して、社会福祉士側からというより、むしろ累犯障害者・高齢者の増加とその地域処遇の必要性に迫られて、さらには更生保護法の制定(2007年6月)に続いて設けられた地域生活定着支援センターへの福祉職の配置の必要に合わせて、行政側の主導で進められた可能性が指摘されているのである(齋藤)。
 刑期等のしばりがなく、理論的には一生涯にわたる関与があり得るなかで、福祉機関が社会防衛の観点に対して明確な独立性を発揮できるかどうかは、自らが「支援対象者の再犯防止を過度に強調したり、サービスから排除したりすることにつながる可能性」(水藤)を持つ現況と、一方で「刑事司法システムへの還流、具体的には社会福祉・医療機関からの離脱など支援の拒否・怠避があれば刑事施設に戻すといったリスク・マネジメントが構築されていない」(生島)実態のなかで懸念が残る。
 地域生活定着支援センターの財政においても「補助金事業の不安定性に起因する運営上の諸問題、とくに支援者の確保・育成がままならず、将来を見据えた事業展開が困難」(河野ら)と報告される。ソーシャルポリシーに向けた巻き戻しといっても、パワーオーバーのソーシャルアクションは行政や所属機関との軋轢を生む。つまり、公費によって財政的に基礎付けられた臨床においては、相対的に難しい立場の福祉機関に対して、刑事司法からの「丸投げ」が一方的に進む可能性も杞憂とは断じ得ない。
 同じ状況は、心神喪失者等医療観察法の制定(2003年7月)後に、地域の精神保健福祉活動と再犯防止の行動観察という矛盾する役割に踏み込んだ精神保健福祉士にもみられる。
 高齢や障害を基盤に有する再犯者は確実に増えている。福祉職との連携に関心を寄せる弁護士、司法書士や社会保険労務士も稀でなく、それら司法関係者の活躍も報じられる。受動的にせよ能動的にせよ、社会福祉・精神保健福祉専門職の関与は ―たとえ批判的態度をもってしても― 不可避に違いない。「刑事司法」「更生保護」領域の福祉実践に注目し、応援しよう! ソーシャルワークから今一度、ソーシャルポリシーへ。そこは、現代の社会福祉原論を具現する、最前線の臨床現場なのだから。

特定課題セッション II

■テーマ:
ジェンダー/フェミニズムからソーシャルワークを問う
―何が実践に求められているのか―
■コーディネーター:
横山 登志子(札幌学院大学)

■テーマ趣旨:
 近年では、少子高齢化や格差社会の拡大、孤立化等を背景に「地域共生社会」にむけた「地域を基盤としたソーシャルワーク」が注目され実践的・方法論的な蓄積の途上にある。しかし、そもそも「地域」を構成する「家族」をどうとらえるのかという位置づけや、当事者やケアを担う家族の立場にある「女性」支援の研究、「性の多様性を生きる人」を対象としたソーシャルワーク実践/研究が限定的な現状から考えると、想定されている地域での「共生」や「多様性」の内実が一体どのようなものか気がかりである。
 「女性」「性の多様性を生きる人」の抱える問題は、いずれも性別役割分業や公私分離を特徴とする近代家族を前提とした家族規範に規定される「つくられた排除」(=規範や制度としての社会構造上の問題)として再認識することが必要である。その代表的な問題として、貧困の女性化、二次的依存問題、暴力被害がある。
 しかし、支援現場においてクライエントの背景に「社会構造上の問題」がはっきり見えるわけではない。むしろ見えない構造として機能している。実際、クライエントの女性たちは、その人の成育歴や家族歴と密接に関係するメンタルヘルスの問題と絡み合った、ひとりひとり個別の事情のなかで貧困や暴力被害などの生活問題を抱えている。ソーシャルワーカーはその状況のなかに巻き込まれつつ具体的な支援を展開していくが、その経過のなかでライフストーリーを丁寧に共有すると本人さえも気づいていない「命名されない困難」がたちあらわれてくることがある。その困難は、ジェンダーやフェミニズムの視点からみてはじめてカタチを与えられ、明確化される。そこでようやく個別性を超えた共通性として理解できるのである。
 ソーシャルワークには、まだジェンダーやフェミニズムの知見が十分に取り入れられてはいないが、これからは避けて通るわけにはいかない重要な論点になると思われる。母子福祉や女性福祉、児童福祉の領域に特有な知見として議論するのではなく、ジェネリック・ソーシャルワークに必要な知見として取り扱いたい。
 以上のような問題意識から、「ジェンダー/フェミニズムからソーシャルワークを問う―何が実践に求められているのか―」というテーマで研究交流を行いたい。「家族」「女性」「性の多様性を生きる人」に関する研究や実践報告をもとに、ジェンダーやフェミニズムの視点から今後のソーシャルワークに何を追加していくべきかについて議論を行う。

特定課題セッション III

■テーマ:
今、改めて問う社会福祉士の倫理と価値
―社会福祉士業務をAIが代行する際の倫理とルールを中心に-
■コーディネーター:
川島 典子(福知山公立大学)

■テーマ趣旨:
 人口減少社会において、特に中山間地域などでは、専門職のみならず地域のボランティアも高齢化し、種々の福祉業務を担う担い手が不足しつつある。今後は、AIやロボットに社会福祉業務の1部を代行させなければ、人口が極めて少なく高齢化の進む地域では各種福祉サービスを提供できなくなる日がやってくるのもそう遠くはない。
 既に、介護の分野では、AIやロボットに介護業務を代替させるための方策が介護福祉学会などで議論され、国も介護をロボットに代行させることを推奨しつつある 。しかしながら、日本社会福祉学会では、社会福祉士の業務を将来的にAIに代行させる際の方策や、AIに学習させるべき社会福祉士の倫理とルールに関する議論は、いまだされてこなかった。
 申請者は、学術振興会の受託研究である「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業(領域開拓プログラム(研究テーマ公募型))」の助成を受け(研究代表者)、令和2年~令和5年まで「AIが介護保険行政を代行する際のルールに関する研究―地域経営とSCの視座から―」というテーマで、AIには代行し難いといわれてきた社会福祉士の業務 をAIに代行させる際の倫理とルールの開発を行う研究を受託している(受託総額約1400万円)。当面は、介護保険行政におけるケアマネジメントと要介護認定および地域支援事業による介護予防教室における社会福祉士の業務をAIが代行する際の倫理とルールの開発を行う。
 本セッションでは、AIが社会福祉士の業務を代行する際に限らず、社会福祉士の倫理とルールを改めて広義に再考し、その上で、AIが社会福祉士の業務を代行する際に学習させるべき倫理とは何か?ということに関する意見を広く学会員から求め、今後、より進展するであろう人口減少社会において、AIなどと共存しながら社会福祉サービスを行う際の方策について議論してみたい。


 経済産業省(2019)『介護・医療分野でのロボット開発・活用の状況と今後の課題』経済産業省製造局ロボット政策室
 いわゆるオズボーン論文によれば、社会福祉士の業務は最もAIに代行され難い仕事の1つとしてあげられている(Carl Benedikt Frey Michael A.Osborne(2013) THE FUTURE OF EMPLOYMENT : HOW SUSCEPTIBLE ARE jOBS TO COMPUTERISATION?)

特定課題セッション IV

■テーマ:
災害対応において今後、社会福祉に求められる役割
■コーディネーター:
大島 隆代(早稲田大学)

■テーマ趣旨:
 甚大な被害をもたらした東日本大震災から10年が経過しようとしている。その間、熊本地震(2016)、大坂北部地震(2018)、北海道胆振東部地震(2019)などの地震被害だけでなく、九州北部豪雨(2012)、広島県大雨土砂災害(2014)、近畿・四国地方での台風被害(2015)、九州北部豪雨(2017)のように局所的な被害をもたらす水害が頻発し、2019年には、台風15号や台風19号など全国的に甚大な被害をもたらす災害に見舞われている。
 このような度重なる災害を受け、その被害をより強く受ける高齢者、障がい者、子どものほか、傷病者等といった地域の災害時要配慮者への対応として、各都道府県を中心とした災害時における福祉支援体制の整備等が推進されている。そこでは、災害時要配慮者の福祉ニーズに対し、避難生活中の災害時要配慮者に対する福祉支援のための「災害派遣福祉チーム」の組織・養成・派遣の仕組みが構築され、官民協働による「災害福祉支援ネットワーク」の構築に向けた取り組みが開始されている。
 また、ソーシャルワークからの災害時の対応として、「災害ソーシャルワーク」の理論化に向け、東日本大震災をはじめ、災害時に被災地において支援活動を展開したソーシャルワーカーの経験や実践の蓄積をもとにして、その方法の検討がなされている。
 昨今の多発する自然災害を受け、そこでの経験や実践をもとに社会福祉、ソーシャルワークにおける災害対応に関する議論や研究の伸展がみられている。しかし、そこでの議論は、主として個別的な事例に基づいた議論の展開や、特定の「災害」がもたらした被害状況に基づくルポルタージュ的あるいはアネクドート的実態報告からの議論に偏っているのではないかと指摘できる。
 「災害」は、その直接的にもたらされる被害によって、当該被災地域では、広範囲かつ多層的な生活・生業基盤の破損・崩壊、行政・市場の機能不全、住民の生活においてはこれまでの人生の途絶と深い喪失が生み出される。加えて、当該地域が潜在的に抱える地域課題を表出させるだけではなく、長い復旧・復興の過程において新たな課題や不条理を生じさせる。他方では、風化による実態の不可視化が進行する矛盾も伏在する。
 このような、災害によりもたらされる各種課題について、今後、社会福祉はどのような役割を担うことができるのか、これまでの国内外における災害対応からの経験や実践、各種法制度、政策をもとにした議論の場として本分科会を位置付けたい。
 東日本大震災からの復興の途にあり、台風19号からの甚大な被害を重ねて受けた東北地域において本分科会を開催し、災害対応において社会福祉に何が求められるかの議論をとおして、今後の社会福祉からの災害研究及び実践の進展に寄与できるものと考えている。

特定課題セッション V

■テーマ:
子ども・子育て家庭にとっての現代の生きづらさと社会福祉のあり方を考える
―コロナ禍・貧困・虐待・社会的孤立等―
■コーディネーター:
松村 智史(東京都立大学)

■テーマ趣旨:
 昨今、貧困や虐待など、子ども・子育て家庭にとっての生きづらさが深刻化しているが、2020年から全世界に広がっているコロナ禍において、厳しさはさらに増している。例えば、生活保護の申請件数は大幅に増加している(2020年4月分の申請件数は2万1486件と前年同月比24.8%増加し、前年同月比の伸び率は、統計開始以来、過去最大)。また、虐待件数も、全国の児童相談所が2019年度に対応した件数は前年度から3万3942件増え、19万3780件と過去最多になり、増加傾向に歯止めがきかない。さらに、コロナ禍における社会情勢の悪化は、多くの子育て家庭の家計を直撃すると同時に、子ども・子育て家庭のウェルビーイングを多元的に大きく脅かしている。
 コロナ禍は、親にとって、収入・雇用・働き方にとどまらず、子どものケアという観点から、様々な制約が強いられている。また、子どもにとっても、突然の全国一斉休校などで、家庭に閉じ込められたり、孤立化、友人や学校の先生とのコミュニケーションの希薄化など、日常生活が激変し、子どもの健全育成や成長・発達の点から、多くの弊害が指摘している。こうしたコロナ禍で生じた問題に加えて、先述のように、貧困、虐待、社会的孤立といった問題が複合的に重なっている。一方、当事者である子ども・子育て家庭自らが問題に対応することは難しく、家庭内の問題は不可視化されやすい。そのため、家庭外からの支援が必要となるが、接触の制約など限界もある。
 他方、こうした事態のなか、例えば、オンラインの学習支援やコミュニケーションの機会など、新たな取組も始まっている。そうした取組の現状や、課題を考える意義は小さくない。コロナ禍は、子ども・子育て家庭が従来から直面していた、脆弱性や課題を浮き上がらせると同時に、今後の子ども・子育て家庭分野の社会福祉のあり方を考え直す契機ともいえる。
 会員の参加のもと、子ども・子育て支援と社会福祉のあり方をともに考えていきたい。

特定課題セッション VI

■テーマ:
早期発見・早期療育システムを再考する
―「子育て支援」としての障害のある子どもと家族の支援とは―
■コーディネーター:
瀬 早百合(和光大学)

■テーマ趣旨:
 2012年の児童福祉法改正により療育を提供する児童発達支援事業に株式会社を含めた営利目的である民間事業者の参入が認められた。ネット上には診断や障害名を検索すれば、多くの民間児童発達支援事業所のサイトにあたる。2016年の調査では児童発達支援事業所に訪れる41%が障害児相談支援事業所などの支援機関からの紹介ではなく、直接の申込みであったことが報告されている(一瀬2019)。そこでは、障害のある子どもの親たちは「消費者」、もしくは「大切な顧客」として位置づけられる。しかし児童発達支援事業を福祉サービスとして利用するためには、市町村に申請し、支給量を定めた「障害児通所受給者証」の取得が必要となる。基本的生活習慣や発達の状況を詳しく聞き取られ、障害福祉のサービスの該当可否のアセスメントを受ける。ここで親たちは「大切な顧客」から「障害児の親」という存在であることに直面させられる。「大切な顧客」と「障害児の親」という二重の存在として扱われる矛盾した仕組みの中でも揺れ動くこととなる 。
 また、子ども子育て新支援制度が2015年に施行された。地域子ども・子育て支援事業として、子育ての孤立化や児童虐待の増加、多様な大人・子どもとの関わりの減少などを背景に13の事業が展開されている。その事業の1つである利用者支援事業においては、障害児対応の充実として「障害児も含めた、子育て家庭の「個別ニーズ」を把握し、適切な施設・事業の利用を支援する。地域の社会資源とネットワークを構築する」と言及している。地域の身近な場所で子育て中の親子が気軽に参加できる地域子育て支援拠点事業と一体的に運営することで、市区町村における子育て家庭支援の機能強化を推進することが期待されている。
 上述のようにこの10年満たない期間に障害のある子どもの療育の仕組みや乳幼児期の子育て支援は大きく様変わりしている。新たなシステムは、障害のある子どもとその家族のWell-beingに寄与してきたのか否か、現状の認識と課題を検討したい。定型発達児の育児不安や障害児の親になることの葛藤にも着目しながら、特に障害児相談支援事業の機能、地域子育て支援拠点事業や利用者支援事業の中で障害児への実践を中心に障害児福祉を子育て支援に包含して議論が進められれば幸いである。


一瀬早百合(2019)「療育にたどり着くまでの親の経験 : 『障害児の親』と『消費者』」という二重の存在のはざまで」『福祉労働』 (162) 61-69 現代書館

特定課題セッション VII

■テーマ:
介護福祉分野における専門職のグローバル化と国際協力に関する課題
■コーディネーター:
永嶋 昌樹(日本社会事業大学)

■テーマ趣旨:
 近年、わが国では高齢者福祉施設等で働く外国籍の介護職員が急増している。従来、原則として外国人は就労不可であった介護分野であるが、2008(平成20)年7月に発効した日本インドネシア経済連携協定(以下、EPA)により、同年8月に介護福祉士候補者第1陣が入国してから、既に12年以上が経過した。その後、2016(平成28)年11月の「出入国管理及び難民認定法」の改正により、在留資格「介護」が創設された。また、2017(平成29)年11月には外国人技能実習制度に「介護職種」が追加され、さらに、2019(平成31)年4月より新たな在留資格「特定技能」による外国人の受入れが開始されている。これらの外国人介護人材の受入れ枠組みとは異なるが、専門学校等の介護福祉士養成施設では留学生が著しく増加しており、週28時間までに規制されている労働時間内で非常勤の介護職員として高齢者施設等で働いている。また、上記以外にも、在留資格「日本人の配偶者等」などにより、介護職として働く外国出身の人々はEPA等の枠組みができる以前から存在している。
 これらの介護分野の外国人受入れの枠組みのうち、EPAや技能実習制度は元来わが国の人材不足に対応する施策ではない。それらはわが国で蓄積された介護の知見を将来的に高齢化する他国に伝え、活用されることが想定されているといえる。
 しかしながら、介護のグローバル化に関する調査・研究は、主としてわが国の中で行われている活動に関する報告が多くを占めており、介護分野における国際協力に関しては、今後の更なる研究が期待される。
 これらの状況を踏まえ、本セッションでは、外国人の介護労働に関する研究・調査報告を通して、日本の介護の将来像と介護分野における国際協力のあり方を考えていく。国内における外国人介護労働者の人権、地域での生活等の課題とともに、高齢化するアジアの中で日本の知見・実践経験をどのように活かしていくのかを議論したい。