日本社会福祉学会 第68回秋季大会

特定課題セッションの各テーマおよび趣旨

特定課題セッション II

■テーマ:
ジェンダー/フェミニズムからソーシャルワークを問う
―何が実践に求められているのか―
■コーディネーター:
横山 登志子(札幌学院大学)

■テーマ趣旨:
 近年では、少子高齢化や格差社会の拡大、孤立化等を背景に「地域共生社会」にむけた「地域を基盤としたソーシャルワーク」が注目され実践的・方法論的な蓄積の途上にある。しかし、そもそも「地域」を構成する「家族」をどうとらえるのかという位置づけや、当事者やケアを担う家族の立場にある「女性」支援の研究、「性の多様性を生きる人」を対象としたソーシャルワーク実践/研究が限定的な現状から考えると、想定されている地域での「共生」や「多様性」の内実が一体どのようなものか気がかりである。
 「女性」「性の多様性を生きる人」の抱える問題は、いずれも性別役割分業や公私分離を特徴とする近代家族を前提とした家族規範に規定される「つくられた排除」(=規範や制度としての社会構造上の問題)として再認識することが必要である。その代表的な問題として、貧困の女性化、二次的依存問題、暴力被害がある。
 しかし、支援現場においてクライエントの背景に「社会構造上の問題」がはっきり見えるわけではない。むしろ見えない構造として機能している。実際、クライエントの女性たちは、その人の成育歴や家族歴と密接に関係するメンタルヘルスの問題と絡み合った、ひとりひとり個別の事情のなかで貧困や暴力被害などの生活問題を抱えている。ソーシャルワーカーはその状況のなかに巻き込まれつつ具体的な支援を展開していくが、その経過のなかでライフストーリーを丁寧に共有すると本人さえも気づいていない「命名されない困難」がたちあらわれてくることがある。その困難は、ジェンダーやフェミニズムの視点からみてはじめてカタチを与えられ、明確化される。そこでようやく個別性を超えた共通性として理解できるのである。
 ソーシャルワークには、まだジェンダーやフェミニズムの知見が十分に取り入れられてはいないが、これからは避けて通るわけにはいかない重要な論点になると思われる。母子福祉や女性福祉、児童福祉の領域に特有な知見として議論するのではなく、ジェネリック・ソーシャルワークに必要な知見として取り扱いたい。
 以上のような問題意識から、「ジェンダー/フェミニズムからソーシャルワークを問う―何が実践に求められているのか―」というテーマで研究交流を行いたい。「家族」「女性」「性の多様性を生きる人」に関する研究や実践報告をもとに、ジェンダーやフェミニズムの視点から今後のソーシャルワークに何を追加していくべきかについて議論を行う。

特定課題セッション IV

■テーマ:
災害対応において今後、社会福祉に求められる役割
■コーディネーター:
大島 隆代(早稲田大学)

■テーマ趣旨:
 甚大な被害をもたらした東日本大震災から10年が経過しようとしている。その間、熊本地震(2016)、大坂北部地震(2018)、北海道胆振東部地震(2019)などの地震被害だけでなく、九州北部豪雨(2012)、広島県大雨土砂災害(2014)、近畿・四国地方での台風被害(2015)、九州北部豪雨(2017)のように局所的な被害をもたらす水害が頻発し、2019年には、台風15号や台風19号など全国的に甚大な被害をもたらす災害に見舞われている。
 このような度重なる災害を受け、その被害をより強く受ける高齢者、障がい者、子どものほか、傷病者等といった地域の災害時要配慮者への対応として、各都道府県を中心とした災害時における福祉支援体制の整備等が推進されている。そこでは、災害時要配慮者の福祉ニーズに対し、避難生活中の災害時要配慮者に対する福祉支援のための「災害派遣福祉チーム」の組織・養成・派遣の仕組みが構築され、官民協働による「災害福祉支援ネットワーク」の構築に向けた取り組みが開始されている。
 また、ソーシャルワークからの災害時の対応として、「災害ソーシャルワーク」の理論化に向け、東日本大震災をはじめ、災害時に被災地において支援活動を展開したソーシャルワーカーの経験や実践の蓄積をもとにして、その方法の検討がなされている。
 昨今の多発する自然災害を受け、そこでの経験や実践をもとに社会福祉、ソーシャルワークにおける災害対応に関する議論や研究の伸展がみられている。しかし、そこでの議論は、主として個別的な事例に基づいた議論の展開や、特定の「災害」がもたらした被害状況に基づくルポルタージュ的あるいはアネクドート的実態報告からの議論に偏っているのではないかと指摘できる。
 「災害」は、その直接的にもたらされる被害によって、当該被災地域では、広範囲かつ多層的な生活・生業基盤の破損・崩壊、行政・市場の機能不全、住民の生活においてはこれまでの人生の途絶と深い喪失が生み出される。加えて、当該地域が潜在的に抱える地域課題を表出させるだけではなく、長い復旧・復興の過程において新たな課題や不条理を生じさせる。他方では、風化による実態の不可視化が進行する矛盾も伏在する。
 このような、災害によりもたらされる各種課題について、今後、社会福祉はどのような役割を担うことができるのか、これまでの国内外における災害対応からの経験や実践、各種法制度、政策をもとにした議論の場として本分科会を位置付けたい。
 東日本大震災からの復興の途にあり、台風19号からの甚大な被害を重ねて受けた東北地域において本分科会を開催し、災害対応において社会福祉に何が求められるかの議論をとおして、今後の社会福祉からの災害研究及び実践の進展に寄与できるものと考えている。