特定課題セッションのねらいと応募方法

1.特定課題セッションのねらい

 特定課題セッションは、第一に議論の時間を重視した新たな研究発表の形態です。これまでの自由研究発表では、それぞれの発表が独立してなされ、議論も短時間しか行われませんでした。しかし特定課題セッションでは、特定課題に沿った研究発表が複数なされた後に、その特定課題を深めるための共同討議の時間が十分に確保されています。

  特定課題セッションは、第二に新しい議論の形態を模索する試みです。これまでの自由研究発表では、司会者は分科会を運営し、参加者の発言を促す役割が主でした。しかしこの特定課題セッションでは、特定課題を提出したコーディネーターに強い責務と権限を負わせています。

  まずコーディネーターは、自ら今学会として議論すべき特定課題を掲げ、その特定課題での研究発表を会員に促します。そして特定課題セッションに応募してきた研究の中からどれを採用するか決定する権限があります。さらに特定課題セッションの当日は、どのように討議の柱立てをするのかなど、議論の運営をリードする責務があります。大会後には、学会ホームページに特定課題セッションの報告を行います。

 

2.特定課題セッションへの研究発表の応募の仕方

1)研究発表の準備

 今回設定されている特定課題とコーディネーターの方々です。
○特定課題セッションⅠ
特定課題 「高齢者ケア等にかかわる福祉・介護専門職の社会的地位の向上について」
コーディネーター 石田 路子 (城西国際大学)
○特定課題セッションⅡ
特定課題 「効果的福祉実践モデル構築に果たすプログラム評価の役割」
コーディネーター 大島 巌 (日本社会事業大学)
○特定課題セッションⅢ
特定課題 「高等教育機関における障害学生支援の現状と課題、そして展望」
コーディネーター  太田 晴康 (静岡福祉大学)
○特定課題セッションⅣ
特定課題 「高齢者施設における終末期ケアの実践へ向けた、 レジデンシャル・ソーシャルワークの展開」
コーディネーター 大西 次郎 (武庫川女子大学)
○特定課題セッションⅤ
特定課題 「社会福祉政策・実践における“地域モデル”を考える」
コーディネーター 川池 智子 (山梨県立大学)
○特定課題セッションⅥ
特定課題 「生きがいづくりとレクリエーション」
コーディネーター 茅野 宏明 (武庫川女子大学)
○特定課題セッションⅦ
特定課題 「社会福祉学における歴史教育の価値と意義」
コーディネーター 野口 友紀子 (長野大学)
○特定課題セッションⅧ
特定課題 「福祉は「これからの正義」をどう語るべきか」
コーディネーター 妻鹿 ふみ子 (東海大学)

 まず、以下にあるそれぞれのテーマの趣旨をお読みください。その上で、いずれかのテーマに興味をもたれた場合は、そのテーマに関する研究発表の準備をお願いいたします。

2)特定課題セッションへの応募

 応募の準備ができたら、研究発表の申込み締切り(6 月13 日を予定)までに、通常の自由研究発表(口頭)への応募と同様の形式でお申し込みください。その際、発表分野の第一希望に、希望する特定課題セッションを指定してください。なお、特定課題セッションに採用されなくても、自由研究発表の分科会で発表することができますので、第2 希望・第3 希望の分科会を選択することができます。ただし特定課題セッションに採用されない場合に発表を取り下げたい方は、第一希望のみの記載で結構です。

3)特定課題セッションへの採択

 募集した特定課題に沿っているとコーディネーターが判断した研究発表の応募が3つ以上あると特定課題セッションが成立します(2つ以下では不成立となりセッションは行われません)。
また5つ以上応募があった場合は、コーディネーターの判断で、3または4報告に絞り込むことになります。不成立・不採択の研究発表は、自由研究発表の分科会で報告することができます。採択の有無などは,決まり次第、応募者へ連絡いたします。

4)当日の特定課題セッションの運営

 分科会の時間を2時間30 分と想定し、4報告が採択された場合の運営は、次のような時間配分が想定されます。他の分科会同様に1 件の発表の時間はかわりませんが、共同討議の時間を多くとっています。

コーディネーターによる特定課題説明 5分
第一報告者による発表 15分
    事実関係に関する質疑 5分
第二報告者による発表 15分
    事実関係に関する質疑 5分
第三報告者による発表 15分
    事実関係に関する質疑 5分
第四報告者による発表 15分
    事実関係に関する質疑 5分
(休憩) 10分
共同討議 45分
コーディネーターによる総括 10分

3. 特定課題セッションの各テーマの趣旨

■ 特定課題セッションⅠ

テーマ:高齢者ケア等にかかわる福祉・介護専門職の社会的地位の向上について
コーディネーター:石田路子(城西国際大学)

【テーマ趣旨】

  「若者たちの福祉離れ」が言われて久しい。福祉・介護職は、厳しい労働条件の割には給料など待遇も恵まれていない仕事として、いわゆる3K職というマイナスイメージが根強い。しかし、我が国の現状は高齢者数の増加傾向が止まらず、高齢者ケアをはじめとする福祉・介護分野への人材ニーズは、さらに高まっていくことは明らかである。

  現在、国際社会における高齢化の進展により、高齢者ケアは世界共通の課題となっている。 日本は世界で最も高齢化が進んだ国であり、北欧諸国など福祉先進国に学びながら、いち早く独自の福祉・介護政策を推し進めてきた。グローバリゼーションの進展とともに国を越えてケアを担う人材が広範囲に世界中を移動する現代において、高齢者ケア等の問題は自国だけで考える時代ではなくなっているのではないだろうか。これからは、国際的な視野で高齢者ケア等について取り組み、その成果を世界に発信していくとともに、国際社会に共通したケア基準の設置に関する提案を行うことが日本の役割ではないかと考える。

  高齢者ケア等では、ケアを受ける人の尊厳が守られ、その人らしい生活(日常の暮らし、人生観、ライフスタイルなど)を可能な限り維持継続させることを目的としている。その意味では、ケアの本質に精通し、質の高いケア技術・知識をもった専門職の存在が必要不可欠になってくる。しかし、ケアを専門職が行うという「ケアの社会化」については、一部の国や地域で行われているものの、世界全体を概観すると、まだまだ多くが高齢者ケア等を家族に頼っている現状がある。また、家族以外であっても、専門職とはいえない人材によってケアが行われている場合も少なくない。

  こうした状況から、高齢者ケアに従事する人たちへの評価は高いとはいえず、その専門的技術や知識を備えた専門職への社会的地位も上がっていないのが世界的に共通する現状である。 この実情を可能な限り乗り越え、払拭していくことが、地球上のどの国に暮らしていても人々の幸せのために求められているのではないだろうか。そして、高齢者ケア等にかかわる専門職の社会的地位の確立・向上も大きな要素を占めてくる。そこで、①ケアを必要とする人には、専門職によるケアが出来うる限り提供されなければならない。②専門職によるケアとは、専門職としての一定基準が担保された理念・倫理・技術・知識等の修得がされた人材によるケアである。③その基準は、国際社会にも共通するグローバルスタンダードの内容をもつものでなければならない。④そして、質の高いケア専門職の数が確保されなければならない。

  以上のような内容から、高齢者ケアにかかわる専門職の社会的地位の向上について、とくに国際社会を視野に入れた論点を加えながら議論を展開させていきたい。その中で、高齢者ケア等に関する国際社会に共通した基準(Care Standards)づくりについてもふれていきたいと考えている。

 

■ 特定課題セッション Ⅱ

テーマ:効果的福祉実践モデル構築に果たすプログラム評価の役割
コーディネーター:大島 巌(日本社会事業大学)

【テーマ趣旨】

  こんにち世界的な潮流となっている科学的根拠に基づくソーシャルワーク実践や福祉実践プログラムを発展させるためには、福祉実践家が日々の実践の中での創意・工夫、心がけを蓄積し、実践的努力の積み重ねの中で形成されつつある効果的と考えられる「福祉実践モデル」に対して、理論的根拠を与えるとともに科学的根拠(エビデンス)を構築するプログラム評価の理論と方法論の活用が求められている。

  近年、日本の社会福祉実践領域においても、社会福祉制度改革の影響もあって、達成目標を明示した新しい福祉実践プログラムが相次いで導入されるようになった。介護保険法の介護予防事業、障害者自立支援法の就労移行支援事業、退院促進支援事業、生活保護の自立支援プログラム、就労支援プログラムなどである。これら新たに導入された福祉実践プログラムを、より効果的で有用性の高いプログラムモデルに発展させようとする実践的、研究的な取り組みが始まっている。一方、児童養護施設へのファミリーソーシャルワーカーの配置、小地域にコミュニティソーシャルワーカーの導入、触法少年に対するピアサポーター導入支援などにおいて、効果的な福祉実践モデル構築のための地道な努力が行われており、プログラム評価論的な観点からの関心が高まりつつある。

  この特定課題セッションでは、これらさまざまな領域で始まった効果的な福祉実践モデル構築に向けた取り組みに対して、プログラム評価の理論と方法論はどのような貢献ができるのか、またプログラム評価アプローチは、科学的根拠に基づくソーシャルワーク実践研究や、社会福祉学研究全体の中でどのような役割を果たしうるのか、この領域に関心をもつ多くの会員の皆さんとともに議論できればと考える。

 

■ 特定課題セッション Ⅲ

テーマ:高等教育機関における障害学生支援の現状と課題、そして展望
コーディネーター:太田 晴康(静岡福祉大学)

【テーマ趣旨】

  近年、高等教育機関に修学する障害学生は増加の一途をたどっている(注:日本学生支援機構調べ)。その背景には、障害のある若者の職業上の選択肢の拡大、障害者のアクセスビリティに配慮した社会環境の改善及び高等教育機関側の就学環境の整備などがある。

  しかしその一方で、我が国の障害者運動の大きなうねりと、それに応える形で障害者施策、障害福祉サービスが充実しつつある現状と比較すると、高等教育機関における変革・改革の動向は決して十分とはいえない。

  まず、障害種別と支援方法が固定的であり、横断的な視点に欠けがちである。一例をあげれば、聴覚障害学生への支援手段として教員の音声情報を文字情報に変換し伝えるノートテイクは弱視学生、肢体不自由学生はもちろん、的確に要約された情報を伝達できるならば発達障害学生や学習障害学生に対しても有効と推察されるが、多くの高等教育機関ではノートテイクを聴覚障害に固有のサービスと位置づけがちである。しかしノートテイクは発達障害・学習障害学生支援においても有効と推察される。

  2 点目にIT技術を活用した手法に関する体系的かつ学際的な研究が少ないため、ややもすれば利用者の声を十分に反映していない技術偏重主義ともいえる傾向が見られる。これも例をあげれば、アプリケーションソフトウェアや情報バリアフリーを実現する方法論に障害学生側からのアプローチは非常に少なく、情報の提示方法一つとってもソフト開発者、支援者の経験的な基準がスタンダード化しつつあり、人間工学に基づく視点あるいは研究の蓄積がない。

  3 点目に支援理念に基づくサービス供給が実施されているとは言い難い。支援に際して、学習権、合理的配慮といった権利性を前面に出した仕組みを整えている高等教育機関は大変少ない
のが実情である。本来、高等教育機関における障害学生の学習環境が基本的人権に基づき整備されるべきであるとするならば当然のことながら公費による負担が望ましい。ところが、手話通訳にせよガイドヘルパーにせよ、高等教育機関がその費用を担わねばならない現状があり、費用負担に耐えきれぬ場合は障害学生に我慢を強いているのが現実である。

  しかし次代を担う若者が、とりわけ障害ゆえに進路を制限されてきた若者たちが、欠格条項の廃止という趨勢のなかで、専門知識・技術を身につけ、専門分野で活躍する道を当の教育機関において阻まれるならば、それは教育機関の欠格条項と言わねばならない。

  そこで、「高等教育機関における障害学生支援の現状と課題、そして展望(仮称)」というテーマに収斂する諸分野及び種々の立場からの研究報告を広く募り、今後の研究の活性化と研究成果の蓄積、高等教育におけるインクルージョン環境の整備等に寄与し、ひいては学会の隆盛につなげたいと考える。

 

■ 特定課題セッション Ⅳ
テーマ:高齢者施設における終末期ケアの実践へ向けた、レジデンシャル・ソーシャルワークの展開
コーディネーター:大西 次郎(武庫川女子大学)

【テーマ趣旨】

 本テーマの目的は高齢者施設、とくに特別養護老人ホームや老人保健施設で終末期ケアへ取り組む際に欠かせない介護福祉と保健医療の的確な施設内連携が、組織運営・管理面でもつりあいの取れた経営的インセンティブとなる、具体的な協働態勢と制度設計を提起することである。

  利用者の高齢化と重篤な介護度に加え、救急体制の限界など施設外医療連携の脆弱化を背景に、終末期へ至るケアを志す高齢者施設は増えている。そのことが皮肉にも施設内での医療的判断・対応の難しさと不採算性を露にし、現場職員の燃え尽き・離職や施設経営の難渋を招いている。

  ソーシャルワーカーが福祉の視座に基づいて、利用者の療養生活を支援する役割を担うことは論を待たない。その活動の場が高齢者施設となれば、入居者・家族の心理面、組織の維持や地域を含めた社会環境面での調整を図る専門職として、レジデンシャル・ソーシャルワーク機能を果たす役割がなおさら不可欠である。にもかかわらず、高齢者施設は資格制度上の業務分掌を背景に、ソーシャルワーク実践において入所・入居先としての社会資源の位置付けにとどまっている可能性も皆無とは言えない。他方、要介護度が高く、身体的合併症も重篤な利用者が増える高齢者施設において、どのように彼/彼女らの終末期を支えていくかは喫緊の課題となっている。

  多死社会を迎え、医療保険適用病床の増加も容易ではない中、死亡数の大半を占める高齢者へ終末期ケアを提供する場や、その広がりが多くの国民から注視されている。また、本テーマには介護・看護者ら複数の専門職との意思疎通や、組織運営管理上の課題への配慮を要し、かつ法制度・政策適応に向けた展開をも勘案する複眼的視座が欠かせない。異なる倫理・価値を持つメンバー間の関係調整、ソーシャルアクションを含む俯瞰的アプローチはソーシャルワークの一特質であり、今こそ、ソーシャルワーカーが重要な社会的テーマを看過しない姿勢を示す好機である。

  高齢者施設における終末期ケアへ関心を抱く会員を広く募り、社会福祉職に加えて介護職・看護職、施設管理・経営者、政策立案・遂行者といった複数の報告者と議論を深めて 「医療と福祉の協働(施設外連携[例えば同一法人内異種施設間]を含む)」 「利用者満足と採算性」 「介護報酬上の位置付けと施設の機能/役割分担」 等の切り口で“高齢者施設における終末期ケア”を解体・再構成する。以上を通して、近接する実践/学術領域と机を並べながらも確固として独立したレジデンシャル・ソーシャルワークの存在と自主性を明らかにすることは、社会福祉職の活躍領域の一端を確認・記録するという意味でも重ねて有意義なものと考える。

 

■ 特定課題セッション Ⅴ

テーマ:社会福祉政策・実践における“地域モデル”を考える-地方型福祉・都市型福祉モデル・市町村・圏域モデル等の観点から-
コーディネーター:川池 智子(山梨県立大学)

【テーマ趣旨】

  「地方の時代」「市町村福祉時代」と言われて久しいが、その地方に適した福祉、その市町村に適した福祉、理想的な“地方モデル”という視点をもった、自治体の福祉政策・実践への取り組みが、十分行われてきたといいきることができるだろうか。確かに先進的な自治体の例が紹介されることは多いが、それらの創意工夫に富んだ政策・実践が、広く、日本のどの地域においても積極的に取り組まれているまでに至っているであろうか。提案者自身は、むしろ、障害者自立支援法の施行によって(法改革があるとはいえ)、社会福祉のほとんどの領域において、市町村が福祉サービスを担うようになった今日、理念はともかもくも、現実には、まだまだ戸惑いや混乱がある市町村を目にすることが少なくない。

  そのような状況を打開するための方法の一つとして、社会福祉政策と実践における“地方モデル”という視点でとらえ、地域モデル構築の方法を検討する意義を問い、またその方法へのアイデアを広く多くの学会員と交換したい、ということで、今回、標記のテーマを特定課題セッションの一つにとりあげていただくことができないかという、お願いをさせていただいた。

  提案者が、この課題を考えるようになったことには二つの理由がある。

  その一つは、これまで、様々な福祉行政・民間の関係会議に委嘱され、活動してきた経験からである。以前、介護保険や障害者計画の策定に関わった時は、県名をいれかえればどこの県の計画かわからないような、数値以外は地域特性がほとんど勘案されない計画に何度も意見を言わせていただいてきた。現在関わっている県・市レベルの会議では、地域住民や当事者のニーズに応じた政策・実践を充実していくための工夫を行政・当事者組織の人たちと議論しあいながら地域特性にあわせた計画策定をめざそうという流れを作る一人となっているが、まだまだ課題は多い。また、地方都市、大都市両方の当事者組織に関わってきたことからは、地方と都会の生活問題の傾向に違いがあるにもかかわらず、福祉サービスは同じようなものであったりすることにも疑問をもった。市町村主導といっても、標準的な枠からはみだすことが難しい現状があるようだ。

  もう一つは、現在の研究テーマが、今回の提案テーマと重なる部分があるということである。「障害を持つ乳幼児と親に向けての包括的支援ネットワークに関する地域モデルの研究」というテーマで2007 年から2 年間 科研費助成を受けた共同研究を行い、現在も補足調査として、地方や都市の障害児福祉行政、親の会等のヒアリング調査を継続している。これまで、3つの地方の県、2つの政令都市、大都市の中の一つの区を中心に調査、比較分析を行ってきた。市町村レベルでの比較を含めた“地域モデル”の作成まで あと一歩という段階である。これまでの研究で、明確な地域の違いは確認できた。現在は、それらの違いの要因を、その地域に訪問しヒアリングする中で検討している。大都市型、地方都市型モデルについてもあらたな「仮説」がみえてきたが、市町村モデル、圏域モデルという視点でも考えていこうとしている。

  提案者が標記のテーマを掲げた理由は以上のようなことであるが、私が経験し、研究した範囲は限られたものである。社会福祉学会には、全国の各地域で研究者として、福祉行政マンとして、実践者として、県、市町村福祉政策・実践に、深く関わっておられる方々はたくさんいらっしゃるとことと思う。

  全国の様々な地域の、様々な領域の研究者・実践者と“地域モデル”という視点で論議しあうことができたら、中身の濃い「地方の福祉時代」づくりに、ささやかでも貢献できるのではないか、そういう願いをもって、本提案をださせていただく。

 

■ 特定課題セッション Ⅵ

テーマ:生きがいづくりとレクリエーション
コーディネーター:茅野 宏明(武庫川女子大学)

【テーマ趣旨】

  本テーマの趣旨は、福祉・保健・医療分野で行われている生きがいづくりは、厚生労働行政の重点課題でもある生活支援全般あるいは社会参加促進の一環として、日本では長く行われている。その生きがいづくりに関して、広くその取り組みを網羅することを通して、①今後の理論的研究;②幅広い福祉分野での実践;③ワーカー教育(人材育成)、などについての問題点を整理し、これらの課題を集約することによって、厚生労働行政に係る制度の活性化などに寄与することである。また、種々の報告を集約することにより、社会福祉領域における種々の支援制度や施策との関わりや活用、あるいはエビデンスベースでの連携的な研究推進などに貢献できるものと推察される。

  生きがいづくりは、高齢者福祉領域における重点的課題としてあげられることが一般的であるが、広義的にはそれ以外の福祉分野、隣接領域の保健分野や医療分野においても生きがいづくりへのアプローチがある。多くの場合、レクリエーションプログラムと称されるたり、余暇支援と称されたりする。

  例えば、老人デイケアセンターにおけるレクリエーションプログラム;知的障害者の生活介護事業や就労継続事業におけるレクリエーションプログラム(個々人への余暇支援を含む);病院における精神疾患患者へのレクリエーションプログラム;高次脳機能障害の利用者への社会生活力プログラム(余暇モジュール);発達障害児童への各種レクリエーションプログラム(スポーツを含む)などがあげられる。

  他方、種々の領域における生きがいづくりは、社会参加の一環として、あるいは社会的役割の行われていることも否めない。そして、施設毎に行われるため、支援者の技量によって左右される要素も強く、成果などは不透明で、その点では課題でもある。どの分野でどのように行われて、どのような成果や課題があるのかなどについて、理論的あるいは実践的研究情報を共有することは、本学会にとって、重要なテーマの一つであり、議論の活性化につながることが期待できる。

 

■ 特定課題セッション Ⅶ

テーマ:社会福祉学における歴史教育の価値と意義
コーディネーター:野口 友紀子(長野大学)

【テーマ趣旨】

  どの学問領域においても歴史を学ぶことは重要であり、どの領域の専門家に聞いても歴史を学ぶことが重要ではないという人はいない。社会福祉においてもそうであろう。社会福祉の教育や実践,研究に携わる人びとの中で歴史を軽視する人はいないはずである。

  しかし、歴史教育の重要性への認識とは裏腹に社会福祉専門教育における歴史教育については、2004 年の社会事業史学会第6回大会においてその不振の実態が明らかにされている。社会事業学校連盟(現、社会福祉教育学校連盟)加盟校を対象とした調査(2003 年)によると、社会福祉の歴史に関する専門科目が開講されているのは全体で48%に過ぎないという。「社会福祉専門教育における歴史教育の課題─社会福祉歴史教育に関する小委員会報告─」(『社会事業史研究』第34 号,2007 年)によると,社会福祉歴史教育について5つの問題点が指摘されている。

  それらは(1)「2000 年代を除き、新しい学校ほど開講率が低下し、特に、社会福祉士制度以降の新設校で歴史関係科目を開講していない傾向が顕著である」こと、(2)必修にしている学校は全体の16%,歴史関係科目を開講しても履修する学生は少なく「社会福祉専門教育機関で学ぶ学生の多くが、社会福祉の歴史を体系的に学ぶ機会がないままに卒業している」こと、(3)原論や概論でも歴史は取りあげられるが「それぞれの内容にかかわる思想、対象、方法、制度の歴史についてふれる必要があるが、専ら担当者任せであり、あまり取り上げられていない」こと、(4)セメスター制の採用により半期のみの設置の場合もあり「体系的な社会福祉の歴史の講義に困難が生じる」こと、(5)担当教員が非常勤教員である割合が38%であり、「学生が社会福祉の歴史について卒業論文として取り組むなど、より深く学ぶ道は閉ざされ」ている状況にあることである。

  このように2003 年調査から社会福祉の歴史を専門的に学ぶ科目が選択であったり、時間数が少なく体系的に授業を構成でなかったりというカリキュラム上の問題が大きいことは明らかである。

  一方で、現在求められている歴史教育を内容的に実施できているのかという担当教員側の問題もある。「社会福祉歴史教育に関する小委員会(第2次)報告書─社会福祉の歴史教育の現状と今後の展望─」(2008 年,社会事業史学会)によると、視聴覚教材の利用、原典の読み取りと史料の活用、利用しやすい教材開発、参加型授業の実施などの工夫の必要とともに、学生が社会福祉の歴史を学ぶことの「動機づけ」をどのように促せるのかという課題もあげられている。

  上記のような先行調査と検討を踏まえ、このセッションでは、先に見た2003 年の調査時から大きくカリキュラムが変化した状況下での社会福祉の歴史教育をめぐる現状と課題を明確にして、専門職養成と歴史教育との関係の検討したうえで、社会福祉学における歴史教育の価値と意義について議論を深めたい。さらには、社会福祉歴史教育の具体的な教授のあり方なども含めて議論できればと考えている。

 

■ 特定課題セッション Ⅷ

テーマ:福祉は「これからの正義」をどう語るべきか ― 福祉教育における価値と倫理の教育のあり方を問う ―
コーディネーター:妻鹿 ふみ子 (東海大学)

【テーマ趣旨】

  2010 年、最も売れた哲学書の1つは、ハーバード大学のマイケル・サンデルの講義録をもとにした『これからの「正義」の話をしよう』である。NHK 教育テレビで放映された、サンデルの講義「ハーバード白熱教室」との相乗効果もあって、哲学書としては異例の売れ行きだという。 同書は、決して容易に読みこなせる本ではないが、日常生活の中でわれわれ誰もが経験するような卑近な課題や葛藤を素材にして(例えば、富の分配はどうあるべきか、同性愛者をなぜ差別すべきではないのか、等々)われわれに、正義のあり方を徹底的に思考させる本である。このような哲学書や政治思想の講義が1つのブームともいえる状況を引き起こしているのは、今の社会の閉塞状況や不安の反映であるように思われるが、このことを、福祉を教える教員としてぜひ考えてみたいと思う。

  社会福祉教育にあっては、社会福祉の思想的原理は講義科目を通じて学生たちに講義し、援助者が身につけるべき倫理は演習を通じて考えさせる機会を提供してきている。しかし、社会福祉士養成課程のカリキュラムの中で、実際には思想や価値、倫理を十分に考えさせることができているかといわれれば、筆者自身はそれはできていないと感じる。人を援助する専門職は、援助の場面では、さまざまなジレンマの状況や、簡単には解決できない社会の課題に直面する。 そのときに対応することのできる力を大学教育の中で、十分に身につけさせることは言うまでもなく困難であろう。しかしながら、その基礎力をつける機会は、大学時代にこそあるのではないだろうか。サンデルの著書を読み、講義を見聞して感じたことは、福祉を教えるにあたって、もっと、「思考する」機会を提供することは必要なのではないか、ということである。アリストテレス、カント、ロールズの名前や思想を出し、その難解な思想をそのまま講義する必要はない。ただ、彼ら先人たちの知恵をわれわれ教員も学びなおし、その思想を借りながら、今の社会の課題を読み解き、援助者としての対応を考える思考のトレーニングをもっと福祉教育の現場に持ち込むべきではないかと考える。英米のソーシャルワーク理論の新しい流れを学ばせることも無論重要であろうが、福祉の思想を問う教育のあり方がもっと検討されても良いのではないだろうか。

  以上のような問題意識を持って、福祉の思想や原理を問い直し、「思考させる」形の授業デザインによっていかに学生たちに学ばせるか、を共に考えるセッションを作りたいと考える。

3.論点
福祉の価値と倫理とは(リベラリズムに依拠したものでよいのか)
価値と倫理を教授する授業デザインのあり方(事例研究やロールプレイだけでよいのか)



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