大会について

学会長挨拶

日本社会福祉学会第64回秋季大会によせて

一般社団法人日本社会福祉学会 第5期会長 岩崎晋也 一般社団法人日本社会福祉学会 第5期会長 岩崎晋也

 第64回秋季大会は、「社会福祉が育む『共生の創造』」というテーマで、佛教大学で開催されます。 社会福祉が目指す「共生」社会とはいかなるものなのかは、社会福祉にとって常に問われるべきテーマと言えます。例えば、同じ国民だから、同じ地域だから、同じグループだからなどなど、何らかの同質性を基盤に「共生」を求められることがあります。しかし「同じ」だから一緒にやろうという論法は、その裏返しとして「異質」な他者を排除することを前提にしています。さらにその論法が強くなれば、仲間に対しても「同じ」であることを過度に求め、自らの内部にもある異質性や多様性も押しつぶすことになってしまいます。
社会福祉の実践の多くは、マジョリティが作り出す「同質性」を前に、同化を強要される人びとや排除される人びとの苦しみを受け止め、その生活を支援することを大切にしてきました。とすれば、社会福祉が目指す「共生」社会は、異質に思える他者、そして自らの内部にもある異質性・多様性を、相互に尊重しあえる社会なのではないでしょうか。
そうした社会のイメージを、ハンナ・アーレントはテーブルに集う人びとの比喩をつかって次のように述べています。

世界の中に共生するというのは、本質的には、ちょうど、テーブルがその周りに坐っている人びとの真中(between)に位置しているように、事物の世界がそれを共有している人びとの真中にあるということを意味する。つまり、世界は、すべての介在者(in-between)と同じように、人びとを結びつけると同時に人びとを分離させている。(ハンナ・アーレント『人間の条件』邦訳pp.78-9)

私たちは、何かの「同じ」属性があるから結びつくのではなく、私たちの間にある共通の関心事項(テーブル)が結びつけているのです。そしてそのテーブルは、結び付けると同時に、お互いの適切な距離を保ち、過度な同化を防いでいるのです。
そうした社会を作り出すために、社会福祉が何をしなければならないのか、どのようなことができるのか、様々な視点から本大会で深めることができればと期待しています。
最後になりますが、大会の開催に当たり多大なるご尽力を賜りました田中典彦大会長、ならびに岡村正幸実行委員長をはじめとする佛教大学の教員・学生関係者の皆様に、心から感謝申し上げます。

大会長挨拶

日本社会福祉学会秋季大会開催にあたり

第64回秋季大会 大会長 佛教大学 学長 田中 典彦 第64回秋季大会 大会長
佛教大学 学長 田中 典彦

 このたび、伝統ある日本社会福祉学会の第64回秋季大会を佛教大学紫野キャンパスで開催するにあたり、大学を代表して歓迎のご案内を申し上げます。
 佛教大学はその校名が示すとおり、仏教を建学の理念として設立された大学であり、なかでも鎌倉時代に浄土宗を開かれた法然上人の教えをその拠り所としています。佛教大学は、1912年の高等学院および1913年の佛教専門学校から歩みを開始し、現在では社会福祉学部及び社会福祉学研究科を含む7学部14学科、大学院4研究科7専攻を設置し、学部生・大学院生あわせて約7000名を擁する〈人間をみつめる〉総合大学として発展を遂げてまいりました。同時に本学は、通信教育課程に学部・大学院を併設し、およそ12000名の学生・院生が在籍しており、古都京都で紫野キャンパス(北区)と二条キャンパス(中京区)を拠点として、人材養成にまい進しております。
 本学は1962年に仏教福祉学科を開設、1965年には社会福祉学科に改組、1971年に大学院社会福祉学専攻修士課程、1977年には博士後期課程を開設、1999年に通信制大学院を設置し、数多くの専門職と研究者を輩出してまいりました。また、2000年には社会福祉実習教育の充実のために福祉教育開発センターを設置し2004年には学部・センターの取り組みが「特色GP」にされるなど、学生教育についても社会的評価も得ているところであります。
 ところで、仏教思想の中、とくに人間形成にとって重要なこととして教えられているのは「転識得智(てんじきとくち)」でございます。これは、識を転じて智慧を得ること、われわれが得てきた知識をもって、人生のさまざまな場において、今何をすべきかを判断することができ、実行してゆく力(生きる力)へと転換してゆくことを意味しております。「転識得智」は決して精神論ではなく、チャレンジ(前向きの姿勢)、アドベンチャー(知的冒険)、インヴェンション(革新)といった人間の智の働きを磨くことにほかなりません。「転識得智」を大切にすることによって、より良い充実した自分の生き方ができるとともに、他に幸せを施す(布施)ことができるわけでございます。
 このように「転識得智」は、社会福祉の研究、教育、実践にも通じるものがあると考えております。
 早秋とはいえ暑さの厳しい京都での開催となります。また、紫野キャンパスリニューアル工事中でもあり、ご不便をおかけすることも多々あるかと存じますが、どうぞ多数の学会員の皆様がお越しくださいますよう、お待ち申し上げております。

実行委員会長挨拶

大会のご挨拶

第64回秋季大会 実行委員長 佛教大学 岡村 正幸 第64回秋季大会 実行委員長
佛教大学 岡村 正幸

 振り返れば佛教大学での本学会開催をお引き受けしたのは1982年第30回大会であり、以来34年振りということになります。本大会開催にあたっては、当初、本学が大規模な校地リニューアルの最中であり当該年度も工事が続いているため対応が可能か、秋の開催時期とともに不安も多い中で逡巡する意見もあったのですが、本学の事情ばかりではということになりお引き受けすることにいたしました。
 大会テーマについては、学内の検討を踏まえ大会運営委員会、理事会に諮り、「社会福祉が育む「共生の創造」」ということにしました。これは戦前を含む社会福祉の歴史を振り返りながら人々が集う社会を意義あるものにする「共生」をいっそう発展させていく創造的役割が実は社会福祉の側にもあるという時代認識にあります。
 2014年、IFSW(国際ソーシャルワーカー連盟)およびIASSW(国際ソーシャルワーク学校連盟)を軸に国際的に検討されてきたソーシャルワークの定義をめぐり「Global Definition of the Social Work Profession (ソーシャルワーク専門職のグローバル定義)」として変更が行われました。わが国でも社会福祉専門職団体協議会が10のポイントを提示し、国内的な議論の積み重ねを呼びかけています。それらの中には「ソーシャルワーク多様性と統一性」や「当事者の力」、さらに「(自然)環境、持続可能な発展」といった今日の社会福祉の危機を考えていく上での重要な視点が取り込まれています。
 グローバリズムの急速な進展の中、さまざまな面での有限という社会認識の普遍化とともに、この新しい定義で語られる社会変革、社会開発、社会的結束といったことは20世紀末から21世紀にかけて大きく変容しつつある社会福祉の社会機能にどう応えていくのかという時代認識に沿ったものということができます。
 実は34年前に本学で開催しました第30回大会のテーマは「社会福祉の本質を問う」というものでした。当時もまた急速に進行しつつあった世界的な経済恐慌とともに前期近代の行き詰まりの中、変更を求められる社会福祉の現状に対し、いまいちど本質的な問い直しを迫るものだったといえます。
 今回の大会がそうした根源的な問いかけを引き継ぎながら、さまざまな今日の危機に対する社会の基本的な仕組みにあえて社会福祉がどのように貢献できるかということを考え、会員の皆様の議論が深まることを強く期待するところです。
 どうぞ、9月10日(土)11日(日)に早秋の京都、佛教大学にお越しください。スタッフ一同、皆様方を心よりお待ちしております。