特定課題セッション I
- ■テーマ:
社会福祉学における障害当事者である研究者の存在意義―包括的研究環境の構築に向けて― - ■コーディネーター:
高山 亨太(ギャローデット大学)
■テーマ趣旨:
社会福祉学においては、当事者研究やインクルーシブリサーチの発展を通じて、「誰が研究を行うのか」という研究主体の問いが再び重要な課題として浮上している(Oliver, 1992)。とりわけ、1990年代以降に展開してきた障害学(Disability Studies)および、ろう者の言語・文化的視点に立つろう者学(Deaf Studies)の理論的蓄積は、当事者による知の構築を学問として正当化し、社会福祉学に新たな批判的視座をもたらしつつある(高山, 2024)。自身が障害当事者である研究者は、障害当事者である研究者は、社会福祉実践と学術研究を接続しうる存在にもなり得る。彼らの研究活動は、社会福祉学が掲げる理念を具体化する営みであり、同時に、知の生産における当事者性の再定義を促す可能性がある。しかしながら、障害をもつ研究者が直面する制度的・文化的障壁は依然として根深い。たとえば、研究費申請や学会参加における合理的配慮の不足、研究環境や支援体制の限界、情報・言語アクセスの不平等に加え、採用制度における構造的障壁も無視できない事実がある。障害をもつ、特に音声言語によるコミュニk―ションに障壁がある研究者が正規雇用や研究職ポストに就く機会は限定的に陥りやすい。さらに、任期制雇用の増加や採用審査におけるコミュニケーション配慮の欠如が、研究キャリアの継続を困難にしている(Kitchin, 2000; Shakespeare, 2015; 髙山, 2024)。このような状況は、社会福祉学が掲げる「包摂」と「機会均等」の理念と矛盾しており、社会福祉学術界自体の構造的改革を問う契機ともなりうる。
また、当事者研究や共働的研究(co-production)の広がりによって、研究者と当事者の境界はより流動的になり、研究倫理および知の生産構造の再編が求められる。こうした潮流の中で、聴覚・視覚・発達・身体など多様な障害をもつ研究者の存在は、社会福祉学の理論と実践の関係を再考する契機となっている。
本セッションでは、障害を持つ研究者自身の実践的・経験的知見をはじめ、その存在意義、研究環境のアクセシビリティ、制度的支援・政策的課題などを多角的に取り上げる。これらの議論を通して、障害をもつ研究者の存在意義と包摂的研究環境の構築に向けた実践的展望を探り、社会福祉学の発展に寄与することを目的とする。
特定課題セッション II
- ■テーマ:
乳幼児期支援における子ども家庭ソーシャルワーカーの活用と専門性―3号・4号ルートのケアワーク経験に基づく専門性の構造の検討― - ■コーディネーター:
鶴田 智子(比治山大学短期大学部)
■テーマ趣旨:
本特定課題セッションでは、子ども家庭ソーシャルワーカー(CFSW)の専門性、とりわけ乳幼児期支援における役割と活用について検討することを目的とする。令和6年度に「こども家庭センター」が全国展開され、妊娠期から乳幼児期まで切れ目なく支援する体制が整備された。さらに令和7年3月にはCFSWが制度的に確立され、子ども・家庭支援領域における多様な経験背景をもつ実務者の役割を整理し直す契機が生まれた。こうした制度的整備が進む一方で、CFSWが乳幼児期支援においていかなる機能を果たし得るのかについては、今後の議論と知見の蓄積が求められている。
乳幼児期における保育所・家庭・母子保健領域での支援は、養育不安、孤立、生活課題が表出しやすい一方で、適切な介入により状況の改善が期待できる時期であることから、早期介入の専門性が強く求められている。この早期支援の中心的な担い手として注目されているのが、3号・4号ルートを通じて資格取得に至る実務経験者である。これらの専門職は、保育、児童福祉、障害、母子保健、教育などの現場でケアワークを積んできた背景をもち、多職種連携において要となる対人援助スキルを有しており、CFSWとしての専門性を形成する上で重要な基盤となり得る。これらの経験が乳幼児期支援にどのように寄与し、どのような独自性を持ち得るのかについては、検討の余地が大きい。
CFSWは制度化されたばかりであり、配置の状況や支援内容は自治体や機関により多様である。このことは、制度運用の実態、既存職種との共同のあり方、新専門職としての役割形成などについて、幅広い研究が可能であることを意味する。本セッションでは、制度状況を踏まえつつ、CFSWの活用や専門性の特徴に関する実践的・萌芽的な報告も広く歓迎したい。
募集する研究報告は、①保育所・園内支援でのCFSWの関与、②妊娠期・乳幼児期家庭への早期介入のプロセス、③こども家庭センターにおける早期支援モデル、④多職種連携のプロセス分析、⑤3号・4号ルートの専門性形成、⑥CFSW活用に関する初期的取り組みや課題整理、など幅広い内容を想定している。これらの報告を通して、ケアワーク経験がどのように実践的判断、家族支援、環境調整に影響を与えるかを明らかにし、乳幼児期支援におけるCFSWの専門性構造を多角的に検討したい。セッションでは、報告者間および参加者との議論を通じて、乳幼児期におけるCFSWの役割の可視化、専門性の再整理、配置と活用の方向性を提示することを目指す。
特定課題セッション III
- ■テーマ:
社会福祉学領域における理論とデータの対話が拓く科学的実践の地平 - ■コーディネーター:
桐野 匡史(岡山県立大学)
■テーマ趣旨:
社会福祉学は、人々の生活と密接に関わる極めて実践的な科学です。だからこそ、私たちの研究の根幹にある「理論」が本当に正しいのか、そしてそれが現場で本当に役立つのかを、客観的な事実に基づいて不断に検証し続ける誠実さが求められます。しかし、その「正しさ」や「有用性」を証明するための決定的な方法は、いまだ確立されていません。一方で、隣接する他の学問領域を見渡せば、研究手法は飛躍的な進展をみせています。私たち社会福祉学の研究者も、常に現在の知の水準と動向を吟味し、新たな知見を積極的に取り入れていく姿勢が求められるのではないでしょうか。
この半世紀、特にここ四半世紀におけるテクノロジーの進化は劇的です。コンピュータや通信技術の飛躍的な向上により、かつては理論上は可能でも個人の手には負えなかった高度な統計解析や計算が、今や私たちのデスクで実行できるようになりました。たとえば、現在は第4次AI(人工知能)ブームの只中にあります。AI技術は社会のあり方を変えつつあり、社会福祉学の研究においても、データサイエンスや情報工学の手法を取り入れた意欲的な試みが登場しています。これらの手法は、膨大なデータから新たな仮説を導き出す「発見のツール」であると同時に、未来の現象を予測し、より良い支援へと繋げる「実践のツール」としての可能性も秘めています。また、前記に限らず、現代において、こうした科学的な検証や応用のためのツールは、かつてないほど豊富に揃ってきています。これらを社会福祉学にどう実装できるか、その議論と知識の共有は、これからの研究者にとって必要な素養のひとつになるものと考えられます。
そこで本セッションでは、現代の社会福祉学における「理論の科学的な検証方法」について、世代を超えて認識を共有することを目指します。近年提案された、新たな実証的方法論を用いた研究報告などを題材に、「科学に裏打ちされた福祉実践」のモデルをどのように構築していくか、活発な議論を交わしたいと思います。既存の枠組みを超え、社会福祉学の新たな可能性を切り拓こうとする皆様の参加を心よりお待ちしています。
特定課題セッション IV
- ■テーマ:
孤独孤立に対するソーシャルワーク実践の現状と課題 - ■コーディネーター:
岩満 賢次(岡山県立大学)
■テーマ趣旨:
「人々がその環境と相互作用する接点へ介入する」ソーシャルワーク専門職(ソーシャルワーク専門職のグローバル定義に基づく)にとっては、孤独孤立は長年にわたる課題であり続けている。
日本においてもこの孤独孤立に対するソーシャルワークには長い歴史がある。1970年代ごろより、高齢者を対象とした孤独死対策への見守り活動などが展開されている。これらの活動は基本的にはボランティア・地域活動を基盤としたものであり、社会福祉協議会などの支援を伴いながら、実践されてきた経緯がある。近年では、2000年の社会福祉法制定による地域福祉の法定化や、2021年の重層的支援体制整備事業の法定化、さらには2024年の孤独孤立対策推進法などで見られるように、孤独孤立対策が制度化している現状がある。また、孤独孤立対策推進法が内閣府の所管となっているように、従来の厚生労働省所管の社会福祉政策のみならず、幅広い領域へ取り組みが展開されている一方で、所轄庁、予算の流れなどの縦割り構造に伴う新たなる制度のはざまが生まれ(共同募金など民間財源も含まれる)、そしてソーシャルワーク実践がその縦割りに組み込まれる懸念もある。
これまで日本の社会福祉学では主として、児童、障害、高齢などの「分野による福祉」を切り口に議論が進められてきた。日本社会福祉学会大会の分科会においてもその分類を継承している。孤独孤立対策を含めた地域福祉が台頭し、制度化されているものの、孤独孤立対策の新たな政策動向が見られる現在において、領域を横断し、従来の「分野による福祉」では対応できない課題(例、ひきこもり状態、住居確保困難状態など)に対してどのように取り組んでいくべきなのであろうか。
このようなことから、本セッションでは、現代の孤独孤立対策について、ソーシャルワークがどのように機能し、またどこに課題があるのかということを中心に議論を深めていくことを目的としていく。
特定課題セッション V
- ■テーマ:
社会福祉学における、オートエスノグラフィーの倫理・方法論的課題と、研究者自身の文化的当事者性へのクリティカルな学問的価値の再評価 - ■コーディネーター:
大門 彩香(日本女子大学大学院)
■テーマ趣旨:
目的:オートエスノグラフィー(以後AE)の社会福祉学における貢献の可能性と限界を探り、その方法論的位置付けと妥当性の担保、およびAEを採択した研究における実践上の評価・課題等に関する共通認識について検討する。
前提:AEとは、「社会科学において、研究者が自ら有する文化」を「理解することを目的とした記述的研究の総称」(土元・サトウ2022)であり、特定の手順の定めのない研究手法の一つである。これは「1970年代にエスノグラフィーから派生したジャンル」(土元・サトウ2022)であり、文化人類学者であるTedlock(1991)曰く1970年代には、エスノグラフィーにおいて「文化人類学の手法が参与観察から参与の観察」へと変化し、質的研究における客観性神話に大きな転換があった。一方、英語圏のAEを牽引してきたEllis&Bochner(=2006:138-154)は、「フィールドでの時間の限られた調査から、エスノグラファーは、『典型的な』人物や時とか、『一般的な』出来事をつくり出す」が「結局、私が書いたものからわかるのは、その人々が自分たちの世界をどう組織しているかではなく、私が自分の世界をどう組織しているかということ」であると指摘し、研究者自身の文化的背景を不可視化したままの「客観性」に異議を唱えている。このような英語圏の学術論文の流れの中で、日本においては近年、土元・サトウ(2022)らが、AEを体系的に整理し1979 年から2020 年代のAEに関する著作をレビューし、表1のような類型化を行なった。

AEが、社会福祉学において、「当事者研究」にとどまらず、研究者がクリティカルに自身の文化的背景を研究することで得られる価値(研究者や実践家という構造的に優位な権威を持つ者が、時に「女性学」や「男性学」のように内省的要素も含む研究)は重要であり、AEが既存の研究法である当事者研究やエスノグフラフィー等では担えない価値を持つことについては、石原(2020:77-78)がその著書の中で詳細に述べている。
また,本来AEとは、特権的権威を持たない周縁化された人々自身によるAEこそ重視されるべきだが、現状の社会福祉学においてはこれらの人々がそのAEを学術の場において評価される機会はほぼない。そのためまずは、研究者の誰もが持ちうる自身の文化的背景の当事者性から議論を始め、将来的には周縁化された人々への議論へと広げていくことを目指す。
議論の趣旨:
- ①社会福祉学において、AEを方法論としてどのように位置付け、その思想・理論・倫理・手法・評価のあり方を含む質の担保をどのように定め合意形成に至るべきか。
- ②AEにおける妥当性に関する議論は、英語圏においてはすでに約50年前から様々な領域、視座から議論されてきた。当セッションにおいては、かつて研究の場において量的調査が絶対的価値を持つ中で、質的調査がその必要性と有用性を示してきたように、AEに付随する客観性神話の障壁をクリティカルに省察し、既存のあらゆる研究手法を一切否定することなく、従来の研究手法に残された死角(社会的に周縁化された人々や、社会的脆弱性の強い集団に属する人々の真のニーズの表明や、従来の手法では語り手と分析者が異なるために回避不能であった分析における齟齬等)を照射する有益な手法として、AEが社会福祉学においても他の研究手法と相互補完的役割を果たしうる手法であることを明文化する。
- ③AEの方法論としての限界や,利用する際の留意点などのクリティカルな指摘の自覚的両立を目指す。
