日本社会福祉学会 第65回秋季大会

大会について

学会長挨拶

日本社会福祉学会第65回秋季大会によせて

一般社団法人日本社会福祉学会 第5期会長 岩崎 晋也

一般社団法人日本社会福祉学会
第5期会長 岩崎 晋也

 第65回秋季大会は、「『包摂型社会』への提言-人びとの生の剥奪と再生-」をテーマにして、首都大学東京で開催されます。
「包摂型社会」が求められている背景には、近年、社会的つながりが弱い人が増えていることがあげられます。これまでの社会では、多くの人々は安定的な家族・職場・地域に帰属し、相互にその存在を承認し合える関係を結んできました。しかし近年、そうした安定的な帰属の場を持てない人々が増えてきています。家庭では、そもそも家族を形成しない生涯未婚者が急増し、高齢者の単身世帯も増加しています。また職場においても雇用の流動化や非正規化が進み、非正規雇用者の割合が増加し、稼働年齢階層の全般にわたって求職活動や通学・家事をしていない無就業・無就学者が増えてきています。地域社会では高齢化過疎化が進み、地域社会としての機能を維持できないところも増えてきています。
 もちろん社会的つながりが弱いことがただちに問題だという訳ではありません。自ら積極的につながりを求めない生き方を選択する場合もあるでしょう。問題となるのは、社会からの承認欲求を持ちながら、社会的つながりが弱いため、相互承認する場に帰属できない場合です。社会的な承認が得られない状態が長く続くと、孤立感が増し、自己肯定観や自尊感情が低下し、自らの力で社会的つながりを回復する意欲を奪ってしまいます。その結果、自殺やホームレスになるなど、社会から排除され、ドロップアウトしてしまう危険性すらあります。
 こうした社会的つながりの弱さは、本人の自助努力で解決するのは困難であるばかりか、様々な要因による家族、職場、地域社会の変化が増加させていることを考えれば、社会問題として、社会の責任において取り組むべき新たな課題と言えるでしょう。
 しかしこの課題を解決するためには、単に既存の社会的つながりの中に帰属させればよいという訳ではありません。本人の生き方や、その人の生きにくさを生み出している社会的要因を無視した「包摂」は、まさに暴力性を有する同化に他ならないからです。
 本大会では、「生きにくさを生み出す社会の暴力性」に社会福祉がどのように抗することができるのか、どのような「包摂型社会」を目指すのかについて、様々な視点から深めることができればと期待しています。
 最後になりますが、大会の開催に当たり多大なるご尽力を賜りました岡部卓大会長、ならびに和気純子実行委員長をはじめとする首都大学東京の教員・学生関係者の皆様に、心から感謝申し上げます。


大会長挨拶

日本社会福祉学会秋季大会開催にあたって

第65回秋季大会 大会長 首都大学東京人文社会系 教授 岡部 卓

第65回秋季大会 大会長
首都大学東京人文社会系 教授 岡部 卓

 このたび伝統ある日本社会福祉学会を、首都大学東京・南大沢キャンパスで開催していただき誠にありがとうございます。
 首都大学東京は、2005(平成17)年4月に東京都の4つの大学(「東京都立大学」・「東京都立科学技術大学」・「東京都立保健科学大学」・「東京都立短期大学」)が統合し設置された公立大学法人であり、「大都市における人間社会の理想像の追求」という使命のもと、時代の変化や社会の要請をとらえ、広い分野の知識と専門的学術研究、豊かな人間性と独創性を備えた教育、大都市に立脚した教育研究を目指しています。
 1949(昭和24)年に設立された東京都立大学は、1991(平成3)年に南大沢の地に移転し、再編・統合された後、「首都大学東京」に名称が変更となりました。首都大学東京・都市教養学部・人文社会系は120名強の教員を擁し、哲学・歴史・文学から心理学・教育学・社会学・社会人類学等まで3コース・12分野・15教室に分かれ少人数教育を行うことを特徴としています。そこでは、知の追求を通しさまざまな生への着目により人間性を高め、人間・文化・社会の中で何ができるか、またそのあり方を問うことを中心に研究・教育・社会貢献を行っています。
 人間や社会のあり方を問い、われわれが社会で生きることの存立基盤を掘り起こすことを使命とする人文社会系にとって、「包摂型社会への提言」を人間と社会の剥奪と再生の観点から追究する日本社会福祉学会第65回大会は、問題意識を共有する格好の機会となると考えます。皆さまの研究成果にもとづく活発な議論は、研究、教育、そして社会にとって意義のある知の創造につながるものと考えます。
 今日、私たちの社会はその急激な変容により生きづらさ、生活しづらさ、働きづらさが広がりと深さをもって進行しています。そのような時代だからこそ、現状を見定め、人間と社会の再生について探究し、社会的包摂にむけた問題・課題解決の方策を切り拓いていく必要があります。
 本大会が皆さまにとって有意義で実りある経験となりますよう、大学として最善を尽くしたいと考えております。どうぞ多数の皆さまの参加をお待ち申し上げます。


実行委員長挨拶

大会のご挨拶

第65回秋季大会 大会長 首都大学東京人文社会系 教授 岡部 卓

第65回秋季大会 実行委員長
首都大学東京人文社会系 教授 和気 純子

 首都大学東京は、東京都立大学のあった南大沢キャンパスを中心に、日野キャンパス、荒川キャンパスをはじめ、晴海キャンパス、飯田橋キャンパス、秋葉原サテライトキャンパス、丸の内サテライトキャンパスなど複数の地域に点在しています。本大会が開催される南大沢キャンパスは、平成3年に東京都立大学の目黒区八雲からの移転に伴い開設されたキャンパスで、多摩ニュータウンの西部に位置しています。東京都心あるいは横浜地域から1時間弱の郊外にあり、緑豊かな多摩丘陵の一角にあります。地縁が薄い新しい住民が多いことから、今後一気に進む高齢化を見据えつつ、子ども、外国人、学生など多様な住民が参加する多世代多文化共生によるまちづくりと、誰もが安心して住み続けられる地域包括ケアシステムの構築が求められている地域でもあります。
 本大会の事務局は、南大沢キャンパスにある都市教養学部人文社会系に所属する社会学コース社会福祉学分野がお引き受けしています。社会福祉学分野は、東京都立大学人文学部社会福祉学科がその前身で、構成員は教員8名助教1名からなる小規模な組織です。記録を紐解くと、昭和38年の第11回大会が東京都立大学で開催されたことが記されていますが、その後、半世紀以上ものあいだ大会開催校をお引き受けすることが叶わなかったのは、社会福祉学科が人文学部内の小さな組織であったことや、学際的な教育体制をとっていたことなどが背景にあったものと思われます。今回の大会は、そのような小規模な体制に変わりはありませんが、小規模組織の特性を生かしたチームワークと、国際文献社をはじめとする本部事務局の強力なご支援・ご協力を賜りながら開催いたします。
 本学の建学の理念に「大都市東京における人間社会の理想像の追求」が掲げられています。少子高齢化、貧困、格差、暴力、排除、環境破壊など今日の日本や世界が抱える多様な問題が都市部に集積する傾向は否めず、これらの問題は、まさに大学をあげて取り組まなければならない地域課題でもあります。事務局を務める社会福祉学分野においても、「子ども・若者貧困研究センター」や地域との多世代交流コミュニティ・カフェの創設・運営などを通して、包摂型社会の構築にむけた研究・教育・実践に取り組んでいます。
 今回の大会が、都市が抱える課題を含めて、大会テーマである「包摂型社会への提言」にむけて、問題分析から理論、政策、実践にまたがる多領域で活発な議論が交わされる機会となることを期待しています。
 10月21日(土)22日(日)には、皆様と首都大学東京において有意義な議論を行えることを祈念し、スタッフ一同、心より皆様の来学をお待ちしています。