研究発表申込要領
特定課題セッションのねらいと応募方法

1.特定課題セッションのねらい

  特定課題セッションは、第一に議論の時間を重視した新たな研究発表の形態です。これまでの自由研究発表では、それぞれの発表が独立してなされ、議 論も短時間しか行われませんでした。しかし特定課題セッションでは、特定課題に沿った研究発表が複数なされた後に、その特定課題を深めるための共同討議の 時間が十分に確保されています。
 特定課題セッションは、第二に新しい議論の形態を模索する試みです。これまでの自由研究発表では、司会者は分科会を運営し、参加者の発言を促す役割が主 でした。しかしこの特定課題セッションでは、特定課題を提出したコーディネーターに強い責務と権限を負わせています。まずコーディネーターは、自ら今学会 として議論すべき特定課題を掲げ、その特定課題での研究発表を会員に促します。そして特定課題セッションに応募してきた研究の中からどれを採用するか決定 する権限があります。さらに、特定課題セッション開催に向けた打ち合わせを行い、どのように討議の柱立てをするのかなど検討した上で、当日の議論の運営を リードする責務があります。大会後には、学会ホームページに特定課題セッションの報告を行います。

2.特定課題セッションへの研究発表の応募の仕方

(1)研究発表の準備

 今回設定されている特定課題とコーディネーターの方々です。
特定課題セッションⅠ
「総合的な若者支援実践の哲学と方法を巡って」
山本 耕平(立命館大学)
特定課題セッションⅡ
「ソーシャルワーカーをめざす学生の省察を促す実習後の演習を考える」
保正 友子(立正大学)
特定課題セッションⅢ
「子どもの「助けて!」を見つけたい―教育現場の危機対応は万全か?」
石川 瞭子(聖隷クリストファー大学)
特定課題セッションⅣ
「原発事故による自主避難者への社会的支援の必要性を考える」
戸田 典樹(会津大学短期大学部)
特定課題セッションⅤ
「介護分野での外国人雇用と国際協力を考える」
永嶋 昌樹(聖徳大学)
特定課題セッションⅥ
「自己決定と社会福祉学」
新保 幸男(神奈川県立保健福祉大学)
特定課題セッションⅦ
「ソーシャルワーク実践におけるハード福祉の復権」
大西 次郎(武庫川女子大学)

(2)特定課題セッションへの応募

 「口頭発表」と同様の形式でお申込みください。「特定課題セッション」で採択されなくても「口頭発表」の分科会で報告ができますので、第2希望と第3希望は発表分野の「1~24(11ページ参照)」から選択してください。なお、「特定課題セッション」が不採択の場合に発表を取り下げたい方は、第1希望のみの記載で結構です。各セッションの「テーマ趣旨」については、こちらをご覧ください。

(3)特定課題セッションへの採択

 募集した特定課題に沿っているとコーディネーターが判断した研究発表の応募が3つ以上ある場合に「特定課題セッション」が成立します。2つ以下は不成立としセッションは実施しません。また、5つ以上の応募があった場合は、コーディネーターの判断で3または4報告に絞ります。不成立・不採択の研究発表は、自由研究発表の分科会で報告することができます。採択の結果については、7月下旬までに、メールにて応募者の方にご連絡いたします。

(4)当日の特定課題セッションの運営

コーディネーターによる特定課題の説明5分、報告者による発表15分、事実関係に関する質疑5分、休憩10分、共同討議45分、コーディネーターによる総括10分です。4報告が採択された場合、1セッションは合計150分(2時間30分)となります。

3.特定課題セッションの各テーマの趣旨

【特定課題セッション Ⅰ】

■テーマ:総合的な若者支援実践の哲学と方法を巡って
■コーディネーター:山本 耕平(立命館大学)
■テーマ趣旨:
 ひきこもり研究は当初、精神医学研究や心理学研究がリードしてきた。ひきこもる若者の個々の心理的かつ医学的状況について検討する必要性は言うまでもないが、日々の支援実践や若者達の生活を医療的側面で分析するのみでは、若者達の生存や発達へのニーズを保障することは困難である。
 ひきこもりを含む生きづらさを抱える若者達を対象とした支援実践は、強固なセーフティネットを持つ社会であることを願い、その社会を築き上げる主体者となる内実を持つ必要がある。生きづらい若者達は、教育、家族、また地域社会が持つさまざまな複合化した要因の下で移行期を送る。今日では労働市場の厳しさや貧困化が若者の生きづらさを増幅させ、ひきこもりを含む生きづらさの脱出をより困難なものにしている。
 この為、生きづらい若者の支援は、包括的に考える必要がある。若者達を、「困難を抱える若者」から「不利な状況にある若者」へと捉えなおし、現在若者が置かれている社会の不利や矛盾に焦点を当てる視座を構築しなければ、若者を追い詰める社会の諸矛盾は変わらないばかりか、若者たちをどんどん追い詰めることになるのではないかと考える。
 そこで、本セッションでは、若者に対する支援を心理的・医学的ケアを行うターゲット型支援のみでなく、生きづらさが生まれる社会を変える取り組みをよりいっそう広げる社会正義の視点から検討する必要がある。それは、総合的若者支援を構築する道筋である。
 主たる検討事項は次の諸点である。
長期化する若者が抱える複合的課題について検討する。支援現場に登場する若者達は、貧困のなかでの育ち生きる意欲を育てることができない若者、虐待的環境のなかで育ち人との関係を切り開くことが困難な若者、友達関係や学業でつまずき不登校になった若者、高校を中退しひきこもった若者、高校卒業資格を取得し進学したがエネルギーが枯渇し仕事の世界に入れない若者、厳しい労働環境や、職場の対人関係から離職せざるを得なかった若者、発達障害や精神疾患を抱え学校から社会への移行を達成できない若者等々、さまざまである。この複合的な課題と対峙する視点を検討する。
若者支援の哲学に関して。若者支援の現場では、かつてひきこもっていた若者達が支援者として実践に参加し「支援―被支援の関係性」から協同的関係性に基づく実践を展望するところが生じてきている。
長期化する若者のひきこもりにとって、彼らが参加できるオルタナティブな就労が不可欠である。今、六次産業化やコミュニティケアとの関わりで、ひきこもる若者や若年ホームレスが地域で仕事を生みだす動きがある。その実践は、個と集団とコミュニティのエンパワメントとして捉えることができる。
若者支援の場は「積極的自由」を保障する場である。移行期の若者が、自分で選択した人生を歩むことを保障する実践者(ソーシャルワーカー)には、常に内省的な実践(立ち位置)が問われる。この立ち位置をソーシャルワーカーの倫理綱領に照らして検討する。

【特定課題セッション Ⅱ】

■テーマ:ソーシャルワーカーをめざす学生の省察を促す実習後の演習を考える
■コーディネーター:保正 友子(立正大学)
■テーマ趣旨:
 社会福祉士養成に関する「相談援助演習」(以下、演習)は、2007年の「社会福祉士法及び介護福祉士法」改正により120時間から150時間に変更となり、厚生労働省の「社会福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて」の演習シラバス内容には、相談援助実習(以下、実習)前後に行うことが位置づけられた。シラバスでは実習後の演習内容について「相談援助に係る知識と技術について個別的な体験を一般化し、実践的な知識と技術として習得できるように、相談援助実習における学生の個別的な体験も視野に入れつつ、集団指導並びに個別指導による実技指導を行うこと」と書かれてある。
 学生自身が現場に身を置き、自分なりの実践を行った後に演習の場で自らの実践を振り返ることは、できていることと今後の課題を明らかにする大切な省察の機会である。そして、そこで明らかになった学習課題に取り組むことにより、現場実践者になる準備を進めていく。そのような意味から、実習後の演習は実習と理論学習、学生時代と現場実践者としての自己を結ぶ結節点となる。
 しかしながらシラバス内容の文言だけでは、実習後の演習内容は実習事後指導との違いは明確ではなく、各担当者が試行錯誤をしているという声を多く聞く。また、この点に焦点化された演習教育に関する研究は、未だ十分に取り組まれているとはいえない。
 そこで、今回の課題セッションでは、演習を担当する教員による演習デザイン、具体的な方法をもって、実習後の演習では学生の体験をどのように理論と重ねるのか、あるいは、学生が学習した体験をどのようにソーシャルワークに結び付けているのかという意図を共有することを目的としたい。成功例、失敗例、模索例を持ち寄り情報交換することを通して、実習後の演習に盛り込むべき視点や留意点について明らかにし、演習教育の質を高める示唆を得ることがねらいである。演習教育に関心がある方にご参加いただき、大いに議論をかわしていきたい。

【特定課題セッション Ⅲ】

■テーマ:子どもの「助けて!」を見つけたい―教育現場の危機対応は万全か?
■コーディネーター:石川 瞭子(聖隷クリストファー大学)
■テーマ趣旨:
 本セッションでは保育園・幼稚園から小・中・高校、そしてその後の子どもの人権侵害の実態を事例から解きあかし、それぞれの課題を抽出し、今後教育現場は家庭と連携してどのような危機管理をしていく必要があるのかを議論する。教育現場を切り口にした理由は、そこが子らの「助けて!」の発信の場であり、発見の場であるからである。
 今ほど子どもの権利が脅かされている時代はかってなかったに違いない。増え続ける児童虐待・性的搾取・略取誘拐、殺人。看過できない問題は、子どもにとって安心と安全の場であった教室が体罰の発生の場と化し、いじめ自殺の発生の場であり、不登校や引きこもりの原因となるストレス発生の場となっていることである。さらに、子どもにとって拠り所であるはずの家庭がDVや多重債務、嗜癖問題や貧困の問題を抱え、また地域社会も無差別の殺傷事件の発生の場と化しているところもある。また、それらに複雑に絡むネット社会の闇の問題も控えている。子どもの育ちを支える環境が劣化しているのは間違いないだろう。
 一方の動きがある。家事裁判や調停の場で子どもの意見が尊重されるようになった。子どもの権利をもりこんだ家事事件手続法が2014年1月に実施された。また国連総会は子どもの権利条約に「個人通報制度」を導入する選択決議書を採択した。わが国もその提案国に名を連ねている。子どもの権利が立法・行政・司法の領域で整備されつつある。
 翻って、子ども福祉の領域ではどうだろうか。子ども虐待の発生件数が平成22年度は10年前に比して4.7倍に膨れあがった。それに対して児童福祉士は2.1倍。どうみても実態に即した対応がなされているとは言い難い。児童養護施設・乳児院等も満杯の状況が続いており、緊急支援が充分に行える環境ではない。地縁・血縁が希薄になった分を補う社会システムの構築の不備は、とくに子ども福祉の領域に深刻に反映されているといえないか。
 2013年9月の呉少女殺人死体遺棄事件の関係した少女たちはLINEで知り合った仲間と疑似家族を作っていた。同年11月東京都渋谷区で2少女が同居している女子の幼児を虐待死させている。こうした事例に共通して観察されることは、所属する家庭や学校との関係性が希薄である点である。子らはもはや家庭も学校も見限っているのだろうか。
 こうした時代に子ども福祉はどうあるべきだろうか。学校は何ができるか。答えは簡単ではないに違いない。だが放っても置けない。議論を深め何かしら具体的な支援策を提案したい。
テーマ募集は
0歳から19歳までの各段階の人権侵害の実態。保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校での具体的な事例。学校関係や家庭環境、LINE等々が絡む複雑な問題に教育現場がするべきことを議論できる内容が好ましい。SSWに限らず広く関心のある報告者を求める。

【特定課題セッション Ⅳ】

■テーマ:原発事故による自主避難者への社会的支援の必要性を考える
■コーディネーター:戸田 典樹(会津大学短期大学部)
■テーマ趣旨:
 本セッションでは、東京電力福島第一発電所事故(以下、「原発事故」という。)によって生み出された自主避難者の生活困難の実態に迫り、社会的支援の必要性について検討することをテーマとしている。  2011年3月に起こった原発事故は、これまでの災害では大きく取り上げられることがなかった自主避難者と呼ばれる避難者を生み出した。なお自主避難者とは、政府からの避難指示を受けた警戒区域などの避難指示地域ではなく、避難指示が出ていない地域である福島市、郡山市、いわき市、さらには福島県内の市町村からから「自主的に避難した」人達を指している。
 自主避難者の特徴としては、放射性物質による健康被害を心配し避難していることからとりわけ影響が大きいと言われる子どもを中心とした避難が目立つ。このような中で、仕事で自宅を離れられない夫(父親)を残し避難する母子避難者、家族で避難することを望み夫(父親)の通勤可能な会津若松などに避難したものの借り上げ住宅の家賃補助の対象とならなかった県内自主避難者に経済的困難や精神的不安定という状況が表れている。例えば、避難生活により残してきた自宅の住宅ローンの支払い、夫(父親)と別れた二重生活など経済的負担が付きまとう。
 さらには、被災者同士が支援や補償、復旧・復興への関わり方などの違いから分断が生じている。例えば、自主避難者に対して「親や夫(父親)を捨て避難した」、「風評被害を巻き起こす頭のおかしい放射脳」、「職場や地域を見捨て自分たちだけのことを考え逃げた卑怯者」という批判がある。これは復旧・復興の取り組みが極めて個人の責任に帰しており、社会的支援が行き届いていない状況からくる。夫(父親)が不在である母子避難者にとってはこれらの批判が精神的ストレスとなっている。
 原発事故から3年半が過ぎようとする時期に、改めて支援が見過ごされてきた母子避難者、県内自主避難者など最も困難な状態に置かれた自主避難者に光をあて、支援の課題や方向性を提起すること、社会的支援の必要性を訴えることが重要な課題となっている。

【特定課題セッション Ⅴ】

■テーマ:介護分野での外国人雇用と国際協力を考える
■コーディネーター:永嶋 昌樹(聖徳大学)
■テーマ趣旨:
 2014年2月、政府は介護分野での外国人労働者の受け入れを広げる検討に入った。団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、介護人材が100万人不足すると見込まれるからである。2012年度の介護職員数は推計149万人であるが、2025年には249万人が必要とされ、日本人の介護人材だけでこれをまかなうことは困難となりつつある。そこで、外国人労働者の受け入れによって対処するため、技能実習制度の対象に介護を加えること等が検討されることとなっている。技能実習制度とは、その実施機関である公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)によれば、「技能実習生へ技能等の移転を図り、その国の経済発展を担う人材育成を目的としたもので、我が国の国際協力・国際貢献の重要な一翼を担」う事業である。
 しかしながら、技能実習生の滞在期間が最長3年であり、長期の労働を想定していないことから、安価な労働力の使い捨てとなることが懸念される。また、他の産業では解雇や雇止め、労働条件の切下げ等が問題となっている。そのため、介護分野での運用には十分な配慮が必要である。
 ところで、「第4次出入国管理基本計画」(法務省,2010年3月)では、「介護分野における外国人の受入れについては、現在、インドネシア及びフィリピンとの間の経済連携協定(EPA)に基づき、特例的に受入れが行われているが、経済連携協定で受け入れた外国人介護福祉士の就労状況や、この分野が国内人材の重点的な雇用創出分野と位置付けられていることも踏まえながら、我が国の大学等を卒業し、介護福祉士等の一定の国家資格を取得した外国人の受入れの可否について、検討を進めていくこととする」としている。ただし、これまでに進捗は見られていない。
 どのような制度により介護分野に外国人労働者を受け入れることになるのかは現時点では未定であるが、受け入れるという方向で検討がなされていることは事実である。EPAに基づく介護福祉士候補者は、2014年度よりベトナムからの受け入れが決定しており、介護が外国人によって担われることはより現実味を帯びてきている。
 これらの状況を踏まえ、本セッションでは、外国人の介護労働に関する研究・調査報告を通して、日本の介護の将来像と介護分野における国際協力のあり方を考えていく。国内における外国人介護労働者の人権、地域での生活等の課題とともに、高齢化するアジアの中で日本の知見・実践経験をどのように活かしていくのかを議論したい。

【特定課題セッション Ⅵ】

■テーマ:自己決定と社会福祉学
■コーディネーター:新保 幸男(神奈川県立保健福祉大学)
■テーマ趣旨:
1.趣旨
 自己決定の考え方をベースとし、必要な小さな経験と小さな決定を経ながら、小さな失敗とそこからの学びを体験し、その体験を通して判断能力を養い、段階をおって自立への道を歩んでいく。そのプロセスを社会福祉学はどう分析しうるのか。利用者と専門職との間で展開される上記のやり取りをできるだけ詳細に分析しながら、自己決定のプロセスを実践理論として整理していく。その積み重ねを行いながら、自己決定支援をベースとした社会福祉実践を基本に持つ社会福祉学理論を構築する可能性に取り組んでみたい。
2.問題関心
 私自身は、特別養子縁組が成立していく過程における「実親」「養親」「子ども」それぞれが同時並行的に行う自己決定過程を理解することに力を注いでいる。その過程で、自己決定のプロセスを詳細に分析することで社会福祉実践の特徴をより正確に知りうるのではないかという思いを強く持つようになってきた。
 自己決定については、障害者福祉分野においても、高齢者福祉分野においても、社会福祉実践者が悩み苦しみながら、利用者主体の視点から実践に取り組んできている。意思決定という言葉が用いられることもあるが、自己決定と意思決定という言葉の使い方について、それぞれの特徴や重なりの部分などを含めてより詳細に整理するということも試みたい。
3.セッションの進め方
(1)
上記テーマに関心をお持ちいただけた方々からの報告をともに学びあう。その際、自己決定支援のプロセスをできるだけ丁寧に理解するという視点を持ちながら、お互いの研究報告を大切に扱いたい。
(2)
報告については、可能であれば、事例研究的なものと理論研究的なものとを組み合わせてみたい。
(3)
特定課題セッションの特徴を生かして、共同討議の時間を大切にしたい。
(4)
可能であれば、報告をしていただいた方や本セッションに参加いただいた方々との共同研究を行い、その成果を日本社会福祉学会へ還元したい。

【特定課題セッション Ⅶ】

■テーマ:ソーシャルワーク実践におけるハード福祉の復権
■コーディネーター:大西 次郎(武庫川女子大学)
■テーマ趣旨:
 相談援助技術に支えられたソーシャルワーク実践そのものである「ソフト福祉」に対し、「ハード福祉」は社会福祉の概念を制度として構造化し、理解する(太田)。かつて、その制度を具体化する専門的な活動であるソフト福祉は、ハード福祉の付随・派生的な側面と捉えられてきた。しかし現代においては、ソフト福祉が社会福祉学における専門性の前景に立つ。では、精神科ソーシャルワーク実践の場はどうか。統合失調症や認知症者への第三者による成年後見の広がりは、司法ソーシャルワークとして社会的な意義を増している。関心を寄せる弁護士、司法書士や社会保険労務士も稀でなく、それら司法専門職の活躍も報じられている。
 さて、精神科ソーシャルワーカーは精神障害者に対する援助職として国家資格化され、その実践への期待が高まった。しかるに、近年は医療観察法や障害者自立(総合)支援法、あるいは精神保健福祉法の改正などのたび、制度を踏まえた組織の運営や当事者の処遇に追われている。つまり、精神保健福祉士として法に組み込まれ、精神障害者の現況を肯定的に捉えた制度の後追い活用や、ソフト福祉としての知識・技術を重んじる実践が恒常化しかけている。
 歴史的に精神科ソーシャルワーカーは、わが国の精神障害者を取り巻く特有の状況を批判的に捉えることで、当事者の社会的立場を変革してきた。法の網からもれた障害者の許へ足を運び、エンパワーし、制度の問題を探ってきた。今できることを精一杯実践するソフト福祉に不具合を感じたとき、それを改善すべくハード福祉として社会へ働きかけていく循環が大切(青木)なのだ。そこに、当事者とともに歩む精神科ソーシャルワーカーの具体像があった。かかる経緯のうえに国家資格化が図られたはずである。時を経て精神科ソーシャルワーカーは、社会福祉学におけるソフト福祉の重点化へ自らの学問的基盤を依拠するとともに、資格制度より得た職種としての実感から、ハード福祉との間に妥協点を導いたのか。そうではあるまい。
 かたや、家族を含む当事者は「年金など社会保障制度の利用の仕方」、「精神保健福祉施策の学習」、「世間の偏見や差別をなくす啓発活動」を求めている(みんなねっと)。なぜなら、精神障害者と法の関係は対象となる個人への視点が先立ち、社会環境の側の課題はなかなか意識されてこなかった(池原)からである。昔も今も精神障害者を取り巻く日常は、ハード福祉に向けた配慮を要請し続けているのだ。
 2013年度から国の医療計画の対象に精神疾患が加えられ、こころの健康は国民に広く関わる問題と周知された。さらに、改正精神保健福祉法の施行を迎えて移送、医療保護入院、拘束判断や退院支援などへの対応が急がれる一方、身近な障害年金、手帳制度や医療扶助まで法・制度とわれわれは無縁でいられない。また、それらの不備に対する目配りも欠かせない。従って、障害と疾病をあわせ持つ精神障害者へ、社会福祉と保健医療を橋渡しする精神科ソーシャルワーカーの責務は重い。もちろんソーシャルワーカーのみならず、ハード福祉に観点を置いても精神障害者の生活支援は、司法専門職を交えた看護、介護、OT、心理、職リハなどの援助職と、当事者のピア活動およびインフォーマルな資源が協働する学際・総合的な営みである。
 人材不足や繰り返される政策の見直しのもと、的確・迅速な業務遂行を求められる現場の状況は厳しい。だが法・制度をはじめ社会環境という基盤があるからこそ、個別・多様性のもとでも、当事者を含む各職種の経験より得られた指針は普遍さを持つ。日々の人間関係のなかで障害の社会的構築を案じる皆さん、立場を超えて福祉のソフトとハードについて語り合おう!
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